恵(仮名・28歳)は、そこそこ売れっ子のキャバ嬢だったが、とある一人の客に色恋営業を仕掛けた結果、ストーカー事案に発展し、ついにどの店でも雇ってもらえない事態に陥り、引退を余儀なくされたのだ。
「非モテは怖い。本当にそう思うんです。女に免疫がないってこういうことなんだなって」
恵は、Aという30代社会人に色恋オラオラ営業を仕掛けた。だが年齢と彼女いない歴がほぼ一緒の男に、色恋もオラオラも、勘違いを助長させるものでしかなかったのだ。本来、恵は、色恋ましてやオラオラなんてしなくても、十分客を楽しませる素質と教養と、なにより美貌を持ち合わせていた。その彼女がなぜ、危険な営業に走ったのか。
実は、Aが初回フリーで着いたとき、会計時に使ったクレジットカードがプラチナ系ということに気づき、恵はAに対し、ちょっと無謀なことをしても、すぐにパンクすることはないと踏んだためだ。実際、Aは当時、証券系シンクタンクに勤務していた。
証券系シンクタンクに勤務しながらも、どことなく純朴そうな雰囲気を漂わせるAに、恵は次々と色恋営業を仕掛け、アフターで行ったカラオケボックスで自らの下半身を触らせるという行為に出る。そこまでして色恋営業を仕掛けたのには、恵自身の借金にあった。もっとも、節約すればすぐに返せる額ではあったが、贅沢が染み付いた恵にはそんなことできるはずもなかった。とにかく、カネと営業ポイントを稼ぎたかったのだ。
恵の行為が限界スレスレに達した時、Aはどんどん恵に対する思いをつのらせていく。ある日、アフターが終わって、タクシーに乗り合い帰宅する時のこと。いつもの様に恵は、Aに自宅の場所を悟られないよう、自宅よりも数百メートル離れた交差点で下車し、その後タクシーが走り去ったあと、近くのコンビニで30分〜1時間程度時間を潰してから帰宅するのが常。
ところが、Aは金に糸目はつけないとばかりに、恵から見えない位置にタクシーを止めさせ、コンビニから出てくる恵の背後を追ったのだ。これが、恵の地獄の始まり。
いつまで経っても恵が自分のものにならないと、不満を募らせたAは、ある日、恵のアパートまでやって来て交際を迫ったのだ。
こうなるとAは歯止めが掛からなくなり、店でも公然と恵の仕事を妨害するようになる。恵はその店を辞め、上客を引き連れ移籍した。ところが、その上客の間でもAとつながりのある人物がいたことに、恵は気づいていなかった。瞬く間に情報はAへと流れ、新しい店にAが現れるようになると、あとはもうグダグダだった。既に自宅の場所が割れているため、引っ越しを余儀なくされてはいたが、恵は、店を変える度につきまとうAに対抗する手段を持ち合わせていなかった。
そして、何度目かの移籍の後、どこの店でも相手にされなくなり、疲れきった恵は夜の街から距離を置いた。あまりに非道な幕切れだった。
取材・文/三枝めぐみ…キャバからパーティーアテンダントまでありとあらゆる水商売を経験後、小さなキャリアコンサルタント会社に入社。ライターとしても活動中。ツイッターは@MegumiSaegusa