一方、大関・稀勢の里(鳴戸)は両横綱を破って13勝(2敗)を挙げ、優勝していないのにもかかわらず、またぞろ“疑惑の綱獲り”が浮上した。
かねて、稀勢の里に目をかけている北の湖理事長(元横綱)は、この成績を「優勝に準ずる成績」と認定。来場所(14年初場所)、「13勝以上の優勝」を条件に、綱獲り場所となることを宣言してしまった。この意見に、横綱審議委員会の内山斉委員長も同調した。
横綱昇進への内規は、「2場所連続優勝、もしくはそれに準ずる成績」と定義されている。しかし、平成以降、「2場所連続優勝」以外で昇進させた例はない。
これには、1度の優勝経験もなく昇進した双羽黒(北尾)、直前2場所で優勝がなかった大乃国(現芝田山親方)らが、昇進後、期待に応えることができなかったためだ。この慣例は90年(平成2年)秋場所で昇進した第63代横綱・旭富士(現・伊勢ヶ濱親方)以来、24年間も守られているのだ。
夏場所(5月・両国)で13勝を挙げ、15戦全勝優勝の白鵬に2差を付けられながら、なぜか「優勝に準ずる成績」と認定された稀勢の里は、名古屋場所(7月)で初の綱獲りが懸かったが、ここ一番の勝負弱さを露呈して、11勝4敗に終わり、昇進は露と消えた。
稀勢の里が来場所、13勝以上での優勝を果たせば、横審、協会では横綱に昇進させることが濃厚。そうなれば、旭富士以降続いていた「2場所連続優勝」の昇進条件が覆されることになる。
日本人横綱は03年初場所で貴乃花(現貴乃花親方)が引退してから、実に11年も不在。協会が人気回復のために、日本人横綱の誕生を待望する気持ちは理解できる。だが、24年間守っていた慣例を壊してまで、無理やり横綱をつくることには議論を呼びそうだ。
(落合一郎)