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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第217回 グローバリズムのトリニティ(前編)

 グローバリズムとは、モノ、ヒト、カネという経営の三要素が「自由」に、つまりは政府の規制なしで好き勝手に動き回ることで、経済が成長するという教義(ドグマ)である。グローバリズムに基づき、推進される政策を分類すると、以下の三つに集約される。
○自由貿易
○規制緩和
○緊縮財政
 グローバリズムは、この三つの政策パッケージにより推進されるのである。自由貿易、規制緩和、緊縮財政は、グローバリズムのトリニティ(三位一体)なのだ。

 ところで「自由貿易」には、モノやサービスの国境を越えた移動の自由化はもちろん、カネ(投資)やヒト(移民)の移動の自由も含まれている。例えば、自国の工場を「人件費が安い」他国に移転することは、カネの移動の自由という「自由貿易」に基づいている。
 なぜ、自国で操業中の生産拠点(工場)を、わざわざ外国に移転するのだろうか。もちろん、外国に工場を移すことで人件費を引き下げ、利益を拡大するためである。国内の雇用が失われ、国民が貧しくなろうとも、国家を意識しないグローバリストにとっては何の痛痒もない。

 あるいは、現在の日本で大問題になりつつあるヒトの移動の自由化も、自由貿易の一部だ。
 日本企業の経営者は、なぜ外国人労働者を雇うのか。「賃金が安い」以外に理由があるというならば、教えてほしいものである。
 と書くと、
 「いや、日本の労働者の人材としての力が落ちているため、外国人の高度人材を雇わざるを得ないのだ」
 などと反論されてしまうわけだが、ならばソリューション(解決策)は日本国内の教育にお金をかけ、わが国の若者を「人材」として成長させること以外にはないはずだ。ところが、なぜかわが国は教育支出までをも絞り込み、人材育成はもちろん、技術力の凋落まで招いてしまっている。

 80年代から90年代にかけて、わが国は全世界の論文の10%を生み出していた。当時の日本の論文が世界に占めるシェアは、アメリカに次いで第2位であった。
 ところが、橋本緊縮財政以降、わが国の技術力は相対的に衰退していき、2008年には論文数が世界第5位にまで落ちてしまった。さらに、'15年の論文のシェアは、ついにピーク時の半分である5%にまで縮小してしまったのである。
 '04年の大学法人化以降、わが国の大学予算は切り詰められていき、教授は「短期の成果」を求められることになった。各地の大学は人員が不足し、研究者が研究に没頭できないありさまになってしまった。緊縮財政により、教授や研究者たちは論文を書くどころではない状況に追い詰められているのだ。

 緊縮財政が日本の技術力を停滞させ、外国の「高度人材」に対するニーズを高めた。結果的に、技術についてまで「外国依存」が進んでいるのがわが国だ。緊縮財政が技術力を弱体化させ、ヒトの移動という「自由貿易」を推進している。
 同じ話が公共サービス関連でも言える。自由貿易と規制緩和は、これは似通った話だ。国境という規制を緩和し、モノ、ヒト、カネの移動を自由化するのが「自由貿易」だが、国内で各種の規制を緩和するのが規制緩和になる。TPPが「自由貿易」であり、農協改革は「規制緩和」に該当する。両者ともに政府のパワーを小さくし、ビジネスを自由化するという点では発想が同じだ。
 なぜ、そこに「緊縮財政」が加わるのか。緊縮財政あるいは「財政破綻論」のまん延なしでは、公共サービス等の自由化、民営化が実現できないためだ。
 緊縮財政政策を推進したとしても、行政、水道、鉄道、空港、年金、医療、公共インフラ建設等の「公共サービス」は、国民に提供する必要がある。公共サービスは、たとえ経済がデフレ化し、極度の不況に陥ったとしても供給されなければならないサービスなのだ。

 財政が悪化している。とはいえ、公共サービスは提供しなければならない。だからこその民営化である。というレトリックで民間のビジネスが生まれる。
 行政は「公務員給与を減らせ!」と言う、ルサンチマン(強者への嫉妬の意)にまみれた国民の声に応え、職員を派遣社員に切り替える。日本で言えば、パソナをはじめとする派遣会社がもうかる。
 水道や地下鉄、空港はコンセッション方式で民営化。実際、浜松の下水道がフランスのヴェオリアを中心とする民間企業に委託されると報じられている。また、大阪の地下鉄も民営化。東日本大震災という「ショック」を利用し、仙台空港も民営化。
 年金は、財政破綻論に絡めて年金不安をあおり、民間企業(外資含む)の年金保険にスイッチさせる。医療はもちろん「医療亡国にならないために先端医療の保険適用はしない」というレトリックで混合診療(患者申出療養)を推進。高額な自由診療が増え、医療までもが「ビジネス」と化していく。
 公共インフラの整備も、PFI等「民間活力の導入」とのスローガンの下で、民間の投資家や企業のビジネスチャンスを提供する。

 もっとも、これらのスキームを推進するためには、
「政府は国の借金で破綻する」
 という財政破綻論が不可欠だ。財政に余裕があるならば公共サービスは政府が提供すれば済む話で、民間ビジネスの出番はない。
 財政破綻論に基づく緊縮財政こそが、レント・シーカー(政治が生み出す利権を追い求める人)たちにビジネスチャンスを提供する根幹中の根幹なのだ。実際には、日本に財政危機などない。とはいえ、その事実が国民に知られると、公共サービスの民営化というビジネスは不可能になってしまう。だからこそ、日本のマスコミから財政破綻論は消えない。

 デフレ脱却を目指すのはもちろん、レント・シーカーたちのレトリックをつぶすためにも、わが国は緊縮財政を「グローバリズムのトリニティ」として認識し、財政破綻論を打破しなければならないのだ。
 さもなければ、わが国は公共サービスを食い物にされ、国民が損をすると同時に、外国からの移民流入も続き、四半世紀後には「かつて日本国と呼ばれた、別の国」と化してしまっていることだろう。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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