精鋭16頭。群雄割拠の“砂の猛者”たちが集えし今年のフェブラリーSは、各陣営それぞれに「勝ちたい」という野心を隠し切れない。そんななか、「マスコミ的見出しでいえば“悲願の中央GI獲りに向けて”なんだろうが、どれもこれも皮一枚の仕上げでくるんだから、競馬はそう簡単じゃない。キチッとした形で送り出すだけだよ」とクレバーに語る男が一人。丸刈りで精かんな風ぼうはまるで霊峰・比叡山の修行僧のごとく鋭い眼光を解き放っている。一方で己の煩悩を振り払うかのように泰然自若、静かに“その時”を待っているその人こそブルーコンコルドの服部利之調教師だ。
もっとも、達観の境地に至るまでには人馬ともども数年の歳月を要した。実父はあのキタノカチドキやニホンピロウイナー、リードホーユーと数々の名馬を育て上げ、当時、東高西低のなか、“服部ラッパ”と関東陣営にも恐れられた豪腕・故服部正利調教師。父譲りのストイックな厩舎運営は時として従業員との摩擦をも生じさせた。
いまや大黒柱と成長した同馬も、「とにかく体力がなくてね。ゲート試験にすらなかなか進めなかったし、小倉2歳S(2着)当時なんてゲート再審査が追い切りになった。皐月賞(13着)は出走できたものの、道中で肉離れを起こしてしまって…」と虚弱体質に泣かされ通しだったという。
が、「時はすべての悲しみを解決してくれる」の格言通り、厩舎運営も円滑軌道に乗り、ガラスのエースも「体質面がしっかりして、何より、折り合いがつくようになったことがすべての面で大きくプラスに作用している」と師。「坂路800mをガムシャラに走って49秒台を出していた馬が、今では18秒で入れと言えば18秒で入れるようになったからね」
目を見張らんばかりの成長ぶりで、昨年は地方交流GIの南部杯、JBCマイル、東京大賞典を総なめにし、栄えあるNAR特別表彰馬を受賞するまでに。
もちろん、残るは中央のビッグタイトル。東京大賞典以来、中6週と間隔があいているだけに、仕上がり具合が気になるところだが、「11日の日曜日に坂路800m50秒8のところをやったし、今週も坂路50秒2と、気持ち良く行かせて攻めた。ぶっちゃけ、明日がレースでもいいくらいの状態。正直、年齢的に前シーズンがピークかなと思っていたが、もうひと山きたね」と師。「6FのガーネットSを使ってテンションが上がりすぎていた昨年(4着)に比べれば、また一段上がっての挑戦。胸を張って出せるよ。本音を言えば中央GIの勲章は獲りたいし、獲らせなアカン馬やから」
そして最後に、「ちょっと前に浦河から200km、片道7時間かけて、まだ健在のリードホーユーに会いにいってきたんや。厩舎にオレが入って3カ月後に親父はガンで体調を崩したから、あれこれとは何も教わっていないが、今でも厩舎に親父が選んできたニホンピロウイナーやリードホーユーがいた記憶が鮮明に残っている。その記憶が親父からの教えかな」。
こうつぶやいた服部師のまぶたには、きっと思い出の名馬たちにも負けないくらい、輝きを解き放つ愛馬ブルーコンコルドが映し出されているに違いない。