しかし、4月末時点で決戦投票でのサルコジ大統領の敗戦は確実だと見られている。国民の多くが、サルコジ大統領の実績に否定的だからだ。
サルコジ大統領は、「もっと働き、もっと稼ごう」というキャッチフレーズで、大統領になった。基本的に親米派であり、民間活力を優先する姿勢が、当時の国民の支持を集めた。しかし、就任後、失業率はむしろ上昇し格差が拡大した。にもかかわらず、今回の選挙には、財政再建を優先する厳しい姿勢で臨んだ。
一方、トップに立った社会党のオランド候補は、週35時間労働の堅持、6万人の教職員増員、原発依存度の引き下げ、子ども手当25%増額など、いかにも社会党らしい社会民主主義を復活させる政策を掲げた。
実は、第一回目の投票で3位の極右・国民戦線のルペン党首は18.5%、4位の左翼党メランション党首は11.7%と、意外に多くの支持を集めている。
ルペン党首は、失業の原因は移民だとして、移民排斥の持論を繰り返した。そして、メランション党首は、金融取引で高所得を得ている富裕層に批判を集中させた。どちらも、サルコジ大統領の格差拡大政策を批判した点で、オランド候補と同じだ。つまり、フランス国民はすでに反サルコジ政策を選んだことになる。
今年は、アメリカ、ロシア、台湾、北朝鮮など、多くの国や地域のリーダーが任期を迎えて、世界情勢が大きく変わる年だといわれてきた。しかし、これまでのところ大きな波乱はない。その中で、フランスだけが、社会民主主義の復権という新しい道を歩もうとしている。
これは大きな社会実験だ。サルコジ大統領は、「メルコジ」と揶揄されるほど、ドイツのメルケル首相と緊密なタッグを組んで、財政緊縮策によって欧州を債務危機から救おうと努めてきた。しかし、今後フランスは、財政拡張という逆方向に舵を切っていく。
悲観的な見方をするエコノミストは、今後フランスの財政赤字が拡大して、債務危機に陥るだけではなく、欧州全体の債務危機が再燃して、ドイツ・フランスのツートップが牽引してきたEU自体が崩壊に向かうだろうと予測している。
実は、フランス大統領選で議論されてきたことは、日本の政治で議論されてきたことと同じだ。いまの民主党執行部や谷垣自民党が行おうとしている政策は、消費税引き上げ等の緊縮策による財政再建路線であり、消費税反対派の多くが唱えているのが、分厚い社会保障による安定成長だ。反消費税派が唱える経済政策は、実現可能性がないと消費税推進派は批判をするが、それができるかどうかを、今後のフランスが実証していくことになるのだ。
社会民主主義を強めるフランスが今後経済を強めていけるのかどうかは、やってみないとわからない。しかし、私は弱肉強食化政策よりも、ずっとうまく行くのではないかと考えている。社会的安定は、成長の基本条件だからだ。
サルコジ政権が揺らいでも、いまのところユーロの暴落といった事態は起きていない。