ポスティングシステム(入札制度)でのメジャー入りを今オフに1年間先送りしたのが、日本球界を代表する日本ハムのエース・ダルビッシュ有と、アスレチックスとの交渉が決裂して今オフに今度は海外FA移籍する楽天のエース・岩隈久志。この2人の流出だけでも日本球界にとっては、大きな痛手になる。
昨年の交流戦で上位6球団がすべてパ・リーグだったのに象徴されるように、「パ高セ低」という言葉が定着したのは、ダルビッシュ、岩隈に代表される本格派のスター投手の存在が大きい。「なんでパ・リーグばかりにダルビッシュ、岩隈はじめ西武・涌井、楽天・田中、ソフトバンク・杉内らいい投手が集まっているんだ。セ・リーグはやっと去年、広島・前田健太が現れたが…」。セ・リーグOBたちはこう嘆き、パ・リーグOBたちは対照的に胸を張った。
「セ・リーグの投手は本当にレベルが低いよ。巨人・長野が新人王を取ったことなど信じられないよ。力のあるパ・リーグのエース級の投手が体に近い内角を思いきって攻め、外角へ鋭い変化球を投げれば、全く手も足も出ない。ラミレスだって同じだよ。あのバッターに打たれること自体が理解できない」。
もちろん、パ・リーグのファンも鼻高々だ。「その昔は『人気のセに実力のパ』と言われたが、今では『人気も実力もパ』だからね」と。そんな「パ高セ低」の日本プロ野球界を支えてきているダルビッシュ&岩隈コンビがいなくなれば、大打撃は免れない。ファンのパ・リーグ離れが起きかねない。
さらに、新たなポスティング組がいる。中日の左腕エース・チェンは今季1年契約で、早々とオフのメジャー行きの権利を獲得している。ポスティングを希望して拒否されたが、再度今オフの確約を求めて契約更改を越年させた西武・中島裕之。昨シーズン、ここ一番で自らが打たれ、もう一歩でV奪回に失敗したためにポスティングを断念した阪神・藤川球児も、今季、6年ぶりのリーグ優勝を果たせば、念願のメジャー行きを正式に言い出すのは必至だろう。
球団が止めようのない選手の権利の海外FAで堂々とメジャー挑戦する選手もいる。昨シーズン終了後に国内FAの権利を獲得しながらいっさい興味を示さず、今オフの海外FAでメジャー入りを目指している川崎宗則、和田毅のソフトバンクコンビ。国内FAの権利を行使せずに1年契約で横浜に残留した村田修一も、国内だけでなく、今オフはメジャー行きを視野に入れている。
セ、パ合わせてなんと最多のケースで8人もの選手がメジャー挑戦する可能性がある。これまでで一番多かったのは、07年オフの5人だ。カブス・福留孝介(元中日),ドジャース・黒田博樹(元広島)、インディアンス・小林雅英(元ロッテ、現オリックス)、ロイヤルズ・藪田安彦(元ロッテ)、レンジャーズ・福盛和男(元楽天)が、一度にメジャー入りしている。
前年の06年オフに、総額100億円のポスティングと日米球界で大きな話題になったレッドソックス・松坂大輔(元西武)、さらにヤンキース・井川慶(元阪神)、レイズ・岩村明憲(元ヤクルト、現楽天)の2人もポスティングでのメジャー入り。レッドソックス・岡島秀樹は日本ハムからFA移籍。この流れが07年のピークに結びついている。
その07年を大きく上回る可能性がある今シーズン終了後の大量のスター選手のメジャー流出の危機だけに、お家の一大事になるのは当然だろう。もし、8人が全員揃っていなくなれば、日本プロ野球界の屋台骨が大きく揺らぐことになる。ファンとすれば、最悪の事態を想定、今季で見納めと覚悟して、せっせと球場に足を運ぶしかないか。