1948年、アデレード市のソマートン・パーク・ビーチで男性の遺体が発見された。男性はスーツを着てネクタイを締めた格好だったが、身分証明書を持っておらずスーツケースにはラベルが剥がされた衣類が詰め込まれていた。また、ポケットには「Tamam Shud」というペルシャ語が書かれた紙が入れられていた。
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警察はこの男性の身元や死因を徹底的に調べたが当時はうまくいかず、未解決事件となっていた。この事件は男性が発見された町の名前から「ソマートン・マン」、ないしは発見されたメモから「タマム・シュッド事件」と呼ばれ、以来何十年にもわたって様々な推理や憶測が出ていた。
しかし、近年になって現代の科学的分析技術を用いて「ソマートン・マン」の正体や事件の真相に迫ろうという動きが出てきた。昨年5月には「ソマートン・マン」の遺体を調査する研究チームが発足、埋葬された遺体からサンプルを抽出してDNAや遺伝物質を回収し、ソマートン・マンの身元特定を図る動きがあった。ただこちらは遺体に防腐処理が施されていたため、化学物質の影響で遺伝物質が壊れている可能性をはらんでいた。
そして今年7月19日、オーストラリアのある教授がついに「ソマートン・マン」の正体を、徹底的な法医学的系図研究によって突き止めたと主張して注目を集めた。
発表したのはアデレード大学のデレク・アボット教授。彼は事件の謎を何十年にもわたって研究してきた人物だ。彼によれば法医学的系図学として知られる最新の調査技術が、ソマートン・マンの正体をついに導き出したのだという。
アボット教授は10年ほど前、オーストラリア当局からソマートン・マンの遺体が発見された後に石膏で作られた「デスマスク」から採取した毛髪を渡されたという。今回、デスマスクから得られた毛髪からDNAを採取、著名な法医学者のコリーン・フィッツパトリック氏に依頼して、理論的にソマートン・マンが含まれる家系図を作成し、その分岐を調べたという。
この家系図には4000人以上の人物が登場するが、アボット氏とフィッツパトリック氏は今年に入ってようやく、彼が電気技師のカール・チャールズ・ウェッブという男性である可能性が高いというところまでこぎ着けたのである。
最終的に母方の離れたいとこを見つけることができ、彼らにDNAテストを受けてもらったところ、謎の男がチャールズ・ウェッブであったことを示す結果が出たという。アボット氏は検査結果を受け取った時は「エベレストの頂上に登ったような気分だった」と語っている。
では、ソマートン・マンの可能性が高いとみられているチャールズ・ウェッブはどんな人物だったのか。彼は1905年11月生まれで、ドロシー・ロバートソンという女性と結婚していたことが判明している。その後、1947年に妻が「夫が姿を消し、離婚したい」と裁判所に訴えたのを最後に、ウェッブは公の記録から姿を消している。
妻はその後、遺体が発見されたアデレードにかなり近い地域に引っ越したことから、アボット氏はウェッブが「彼女を探すためにこの州に来たのかもしれない」と推理している。遺伝子の系譜の研究に加え、1947年以降、ウェッブの死亡診断書もなく、居場所も分からないということが、彼がソマートン・マンである可能性を高めている。
アボット氏とフィッツパトリック氏による分析結果については疑問の声も上がっているが、昨年5月に開始した南オーストラリア州当局の遺伝子調査の結果によって裏付けられるかもしれない、と言われている。
なお、南オーストラリア州警察は「検査の結果が出るまで調査の最新情報は提供しない」と述べている。いずれにせよ、何十年も謎のままだった未解決事件がいよいよ解決に向かっているのは確かだと言えるだろう。
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Australian Professor Solves 'Somerton Man' Mystery Using Forensic Genealogy?
(Coast To Coast AM)より
https://www.coasttocoastam.com/article/australian-professor-solves-somerton-man-mystery-using-forensic-genealogy/