日本でも検査官に対する怒りの声や高梨に同情する声が多く挙がっていたが、それと同時に注目されたのは、失格となって泣いている高梨の肩をさすり、そっとティッシュを差し出した一人の女性だ。この場面は偶然テレビ中継に映り、日本ではSNSを中心に話題になった。女性はユニフォームなどからドイツの関係者ということが分かり、ネット上では「おそらくドイツの選手。泣けるね、心温まるシーン」「ドイツは2回目進めなくてつらいだろうに励ましてくれてありがとうございます」というような声が多かった。そんな日本での声が、現地のドイツにも届いていたようだ。
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ドイツでは“高梨を慰めたドイツ人のことが日本で話題になっている”と複数のメディアが報じている。報道をまとめると、この女性はドイツ代表に同行した28歳の理学療法士だったという。ドイツ人理学療法士が日本で話題になっていると報じた現地メディアの一つ『WELT』は、失格者を多く出した事態を「これほど多くの議論を引き起こした五輪はない」と非難。そして自国の選手とともに日本の高梨も失格になり「この日本人女性は手に負えないほど泣いた」と同情した。
その一方で、高梨を慰めた理学療法士が日本で話題になっていることを紹介。高梨を慰めている場面の動画が拡散されていると実際の投稿を交えて明かしつつ、「日本ではこのドイツ人がSNSで広く祝われている」と伝えていた。
同記事では高梨についても「高梨は世界で最も成功したジャンパーの一人」「他国のジャンパーや監督らからも人気があるジャンパー」と紹介。高梨が1回目のジャンプで失格となったが2回目を飛び、日本が4位になったことについては「(高梨の失格で1つのジャンプがカウントされなかったが)日本人がどれほど強いかを示す結果だった」と称賛していた。そんな高梨に対し「日本人は誰も高梨を責めてはいない」「高梨に同情している」とドイツでは伝えられている。
とはいえドイツでは今回の失格に関して、測定に対する怒りの報道が圧倒的に多い。五輪開催中に比べると現在は少し落ち着いたものの、失格となった試合から3週間近くたった今でも「まさに悪夢だった」「明確なルールを設けるべき」と、テレビやネットメディアでコーチや関係者の怒りのコメントを交え報じられているのだ。なお、ドイツスキー連盟は今回の件を受けて、FIS(国際スキー連盟)と話し合いの場を設け、ルールの改革を提案したことを明かしている。
一方、意外な形ではあるが、ドイツではいまだに怒りの報道が多いこともあってか、判定に抗議の意を示して怒るより、高梨の心のケアを心配している日本人に対して称賛が上がっている。ドイツのSNSなどでは「日本人は誰も恨む心を持っていない」「日本は次に向かっている」「悲しんでいる高梨のことを第一に心配できる日本人はすてき」との声が寄せられている。
高梨には「ドイツから応援している」「私はあなたを誇りに思っている」といった応援の声も集まっている。皮肉とも言えるが、今回の五輪で意外な形で国境を越えた絆が生まれたのかもしれない。
記事内の引用について
「Deutsche Betreuerin in Japan für ihre Geste des Mitgefühls gefeiert」(WELT)より
https://www.welt.de/sport/article236894175/Olympia-Skispringen-Deutsche-Betreuerin-in-Japan-als-Heldin-gefeiert.html