デイリー選手は、コロナ禍の自粛中に趣味として編み物を始めたという。編み物歴はまだ1年半と浅いにもかかわらず、めざましい上達ぶりで知られ、インスタグラムでは編み物専用アカウントを開設し、自身が編んだセーターやカーディガンなどの作品が次々と高評価を得ている。
>>五輪競技の中継、“自分が見ると負けるから”見ない人は半分本気? リアルタイムで応援できない人の心理とは<<
日本でも趣味のひとつとして知られている編み物だが、実はセラピー効果があることはまだそう広く浸透していない。デイリー選手がセラピー効果を目的として始めたのかは分からないが、何かとストレスの多いアスリートにとって、セラピー効果のある趣味はもってこいだろう。
では、編み物には具体的にどんな効果があるのだろうか。
「編み物セラピー」「ニットセラピー」という言葉もあり、作業療法に取り入れられることもある編み物は近年、主に欧米でその効果が注目されて以降、研究が進められている。
一目一目淡々と編み続ける作業で、つい他のことを忘れてしまうほど集中したときの脳の活動は瞑想に近い状態であることが認められている。具体的には、脳の伝達物質の活動をコントロールするセロトニンの分泌が活性化し、ストレスホルモンが減少する。これによって心拍数・血圧が低下し、不安やストレスを軽減する効果がある。うつ病症状の緩和や、睡眠の質が向上する効果もあることから、編み物は"自然の抗うつ薬"とも呼ばれている。
また、編み物は編み目や段などを数えながら手を動かす作業であることから、脳トレ効果もある。そのため、認知症の予防や手先の運動機能のリハビリなどにも活用できる。
編み物は地道な作業であるものの、それだけに完成した時の達成感はひとしおだ。こうした達成感は、ストレスを解消する効果はもちろん、目標を達成したという実感によって自尊心や自己肯定感を高めることにもつながる。出来上がった作品を実際に使う、もしくは誰かにプレゼントすることで、「自分が作ったものが役に立った」という事実がなお、その効果を高める。
こうしたセラピー効果や脳トレ効果は、編み物以外にも、刺繍や裁縫、パッチワークなど手芸全般に同様の効果が期待できる。
料理やお菓子作りにおいても、セラピー効果が認められており近年「クッキングセラピー」として注目されている。たくさんある料理の工程や細かい作業、火加減への配慮など集中する場面が多いことから、やはりこれも瞑想に似た効果があるとされ、決まった工程通りに作れば完成することから達成感を得やすい。また、人に提供して喜ばれ、感謝されて自尊心や自己肯定感を高める効果もある。
その他、折り紙や塗り絵、園芸や農作業、陶芸などにおいてもセラピー効果が認められている。
心を癒やすツールは、意外と身近に多くある。慌ただしい日々の中でも、時々無心になって楽しめる、自分に合った趣味セラピーを見つけてみてはどうだろうか。
文:心理カウンセラー 吉田明日香