オリンピックの競技に限らず、スポーツ観戦といえば、多くの人が夢中になるイベント。試合の経緯に一喜一憂し、勝敗の結果を見届けるのが多くの人の楽しみ方だろう。ところが、「自分が見ると負けるから見たくない」と、リアルタイムで観戦することを拒む人がいる。このような人には一体どのような心理があるのだろうか。
まず前提として、一個人がただ競技を観戦するだけで勝敗に影響を与えること自体があり得ないこととすると、「自分が見ると負ける」という発言は、本人の思い込みによるものということになる。
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こうした思い込みの中には「自分のせいで負けてしまう」「自分のせいで迷惑をかけてしまう」といった、自責の念を伴うネガティブな思い込みが強いケースがある。このような、物事に対する誤った考え方や捉え方は、「認知の歪み」という状態に当てはまり、自己肯定感の低下に影響を及ぼす場合もある。
また、「自分が見ると負けてしまう」という感覚が過去に観戦して負けた回数に基づいている場合、その根拠となるだけの多くの負けを経験したわけではないのに、応援していた選手あるいはチームが負けたショックが大きく、実際よりももっと多くの負けを見てきたかのような錯覚に陥っている場合もある。
一度思い込んでしまうと、それに反する事実は認めようとせず、無意識にその証拠となる情報ばかりを集める「確証バイアス」という心理現象によって強化されやすい傾向がある。
さらに本来自分でコントロールが不可能なものに対し、自分が思うような結果を引き起こせると思い込んでいる状態をさす「コントロール幻想」は、迷信やジンクスを信じて行う時にも見られる心理現象だが、「自分が見ると負ける」という思い込みについても当てはまる場合がある。負けることは意図しない結果であるとしても、例えば、自分がまるで特殊能力を持っている者であるかのような特別感を持っていたり、それをアピールすることで自己顕示欲を満たそうとしている場合などがそうだ。
あるいは、「負けるから見ない」というのはおふざけ半分であって、実は、試合中の緊張感が苦手であったり、試合に負けた時のショックに耐えられず「結果の分かっているものしか見たくない」というケースもある。自分が応援している選手やチームが負けた時のストレスは非常に大きいもの。特に、オリンピックのように期待が普段より一層大きくなっている場合は、負けた時のショックも大きい。ストレスを人一倍苦痛に感じる人にとって、オリンピックの競技観戦はつらいに違いない。
このように、オリンピックの競技を「自分が見ると負けるから見ない」といってリアルタイムで見ない人の心理には、思い込みが強いタイプと、競技の経過や勝敗に対してストレスを感じるという2つのタイプに大別できる。
いずれにしても、それぞれに合った手段でオリンピック観戦を楽しんで応援するのが一番だ。
文:心理カウンセラー 吉田明日香