2015年に創設されたエゼリシュは人口1400人ほどの村・エゼリシュを本拠地とするクラブで、2015-2016シーズンに同国5部リーグに参入。2017-2018シーズンに5部リーグで優勝し4部リーグに昇格すると、翌2019-2020シーズンには4部リーグ、3部昇格プレーオフを共に制し創設から5年での3部昇格を成し遂げた。
しかし、現在も続いている新型コロナウイルスの影響により同国リーグは無観客での開催となり、さらにスポンサー撤退も相次いだためクラブの経営が悪化。待遇面の問題により4部当時に所属していた選手の大半がクラブを去り、現在在籍する選手の中にもモチベーションを落としている選手は少なくないという。
川越選手に話を聞くと、新たなスポンサーが見つからない中で迎えた2020年11月末にクラブ代表から、選手の給料未払いが続く状況を脱するため「オフ期間を利用して日本でスポンサーを見つけてほしい」と打診を受けたとのこと。当初はこれといったツテがないため難しいと考えていたというが、日本帰国中に歩いていた街中で、あるJリーグクラブが行っているクラウドファンディングのポスターを見かけたという。
「このようなお金の集め方もあるのだと知ったとともに、これなら自分でもできるのではないか」と考えた川越選手は、ルーマニア帰国後にクラブ代表と相談した上で本プロジェクトの実施を決定。相談の際にクラブ代表から「契約選手全員の1カ月分の給料の合計が約100万円」と聞いたため、目標額を100万円に設定したという。
川越選手は現在、エゼリシュ近郊の街・レシファに住む25歳。16歳で2012年に東京・国士舘高校を中退・渡英し、英国では約4年の間に4クラブでプレーした。その後、ビザの有効期限が迫る関係で他国でのプレーを検討していたところ、知人の英国人選手がルーマニアのクラブでプレーしていることを知ったことがルーマニアに渡るきっかけになったという。
ルーマニア国内では、エゼリシュ加入前に5クラブでプレーした。「ピザが下りないために何か月もプレーできず、監督の構想外になってしまったこともありました」と困難な時期もあったという。
2019-2020シーズン開幕前はエゼリシュ近隣のクラブ「ルゴジュ」でプレーしていたという。だが、エゼリシュと試合を行った際、エゼリシュ側からビザの取得も含めた好条件のオファーを受ける。ルーマニアではビザの取得は2部リーグのクラブでも困難な手続きだというが、クラブ代表とも話をした上で「信用してエゼリシュに行ってみよう」と移籍を決断したという。
エゼリシュはビザ取得だけでなく、加入後に右ひざの怪我を負った際は自身の住む街から100キロほど離れた街の病院まで何度も送迎してくれ、治療費も全額まかなってくれたとのこと。グラウンド内外で自身に良くしてくれたクラブに、川越選手は「この先ずっと忘れることはありません」と強く恩義を感じているという。
川越選手曰くルーマニアの人々、特にサッカー関係者の中には「口ばかりで嘘をつく人や信用を置けない人も多くいる」というが、エゼリシュの人々は「僕のことを温かく迎え入れてくれましたし、今でもとても親切にしてもらっています」とのこと。こうしたメンバーやスタッフと共に3部リーグに昇格したことが本当にうれしかったという。
クラブ、そして村の人々から多大なサポートを受けてきた。そのこともあり「たくさんお世話になったクラブ関係者のためにも、このチームと一緒にステップアップしていきたい」と、恩返しの思いで本プロジェクトに取り組んでいるという。
クラウドファンディングは2020年12月23日からスタートしており、期限は2021年3月6日23時59分まで。目標額は100万円で、開始から61日で支援者64人から58万100円(達成率58%)が集まっている(2月22日21時現在)。
今回の支援金については、クラブ運営・補強費やチームドクター招へい費、新型コロナ対策費などに活用していくという。
また、支援は2000円から10万円までのコースがあり、クラブオリジナルグッズや川越選手の出張サッカー指導、ユニフォーム胸スポンサーとなる権利などそれぞれリターンが用意されている。
エゼリシュは現在3部リーグで10クラブ中9位に沈んでおり、4部リーグ降格の危機に追い込まれている。川越選手は「クラブの発展及び大きな目標であるリーガ2昇格に貢献できるよう自分自身、一生懸命にサッカーに打ち込みます。皆様のご支援、ご協力の程よろしくお願いいたします」と支援を呼び掛けている。
CAMPFIRE内プロジェクト
『東欧ルーマニアのサッカーチームをコロナの危機から救いたい』
https://camp-fire.jp/projects/view/352701
文 / 柴田雅人