経済産業省の最新商業動態統計(6月15日)によると、全国のホームセンター(店舗数4362店舗)における4月の売上高は、2985億円で前年同月比4.0%増。中でも園芸・エクステリア部門は約601億円で、前年同月比6.3%も伸びたという。
ホームセンター関係者が明かす。
「新型コロナの影響で緊急事態宣言が出されてから、家庭菜園コーナーの売り上げが好調です。野外で取り組む家庭菜園は自然環境と向き合うことから、外出自粛による巣ごもりで溜まったストレス解消にも役立ち、見直されているようです。これまで家庭菜園の愛好家は、どちらかといえば中高年層の方が多かったのですが、最近は20代〜30代の若い人が多くなっているのも特徴です」
創業100年を超える国内最大級の種苗会社「サカタのタネ」(横浜市)のコーポレートコミュニケーション部(広報部門)の担当者も、このコロナ騒動下で家庭菜園市場がジワジワ伸びている状況をこう明かす。
「当社のオンラインや直営店の動向を見ると、一般の方たちの間では今年の春先から、家庭菜園の関連商品を求める傾向が強まっています」
例えば、オンラインショップの中で、初心者に人気が高いのはハーブの種だという。売り上げは今年の3〜4月で、前年比約2.5倍に伸びた。ホウレンソウに至っては約4倍という急伸ぶり。また、やはり初心者向けの培養土を含む栽培セットは、昨年3〜4月比で約2.5倍も伸びている。
前出の「サカタのタネ」担当者は、こう続ける。
「コロナの影響があることは否定できません。家庭菜園は密になりにくい環境や種から芽が出たときの感動に加え、愛好家同士で『芽が出た』『おいしい』などと会話を交わすコミュニケーションツールとしても支持されています」
ブームの背景には、都市住民の「自給自足」「生産」への関心の高まりがある。ベランダ栽培だけでは満足できず、市民農園、貸し農園などで本格的な野菜作りにチャレンジする人も増えている。
東京や大阪を中心に98カ所で展開している「シェア畑」は、一定の金額で一区画(約6平方メートル〜)の農地を借り、野菜作りができるシステム。農具から種苗、肥料など、すべて借りられるので、ほぼ手ぶらで気軽に家庭菜園が楽しめるのが特徴だ。また、専門家のサポートがあるため、初心者でも取り組みやすい。
この「シェア畑」を運営するアグリメディア(東京都新宿区)の広報担当者によれば、例年、春先の新規契約者は400件台だったが、今年はコロナ騒動が始まった頃から問い合わせが急増し、3月の契約は550件、5月は670件に達したという(4月は緊急事態宣言で受け付け中止)。
コロナ騒動で東京や大阪など大都市部の多くの企業が、テレワークを導入して働き方が大きく変わった。このことで大都市圏から1〜2時間の場所に移住し、そこでテレワークの合間に家庭菜園を楽しむ人も急増している。
首都圏の不動産関係者が言う。
「家庭菜園が楽しめるスペースがある中古物件への問い合わせが、3〜4月頃から急に増えました。例年より3割増しの印象です」
それを裏付ける面白いデータがある。地方への移住者を増やすため、内閣官房が今年1〜2月に東京圏(東京都、神奈川、千葉、埼玉県)在住の約1万人を対象に行ったインターネット調査で、49・8%が地方暮らしに関心を持っていることが分かった。
このデータを踏まえ、前出の不動産関係者が言う。
「もともと都市住民の間で、地方移住への関心が高まっていたことがうかがえます。そこに新型コロナ禍で生活防衛意識がガラッと変わり、テレワークも一気に浸透したことで、以前から移住に関心を持っていた人が実際に動き始めたということでしょう。最近は、神奈川県の茅ヶ崎方面や千葉県の南房総方面、茨城県の太平洋沿岸地域への問い合わせが急増しています。海があって家庭菜園のスペースがあり、東京にも2時間以内で行ける場所が人気です」
家庭菜園ブームは出版分野にも及んでいる。昨年5月に出版された『コップひとつからはじめる自給自足の野菜づくり百科』(内外出版社・はたあきひろ著)は、コロナ感染者数がピークに達した4月に売れ行きが急増し、6月に三刷重版が決定した。約30種の野菜の作り方がイラスト入りで平易に説明され、好評を博しているという。
「コロナ禍で他のジャンルが伸び悩んでいるにもかかわらず、家庭菜園関連の書籍は健闘しています」(書店関係者)
新型コロナの第一波は、今のところやや沈静化している。だが、第二波がいつ牙をむくか分からない。そんな不安な状況下で新しい生命の息吹を感じさせ、癒しを与えてくれる家庭菜園が、さらなる大ブームを巻き起こす可能性は高い。