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〈企業・経済深層レポート〉 大手鉄鋼メーカー・日本製鉄“大リストラ”の理由

 鉄鋼業界は戦後「鉄は国家なり」(旧ドイツ帝国首相ビスマルクの言葉)のフレーズとともに、日本経済を支えてきた。そんな鉄鋼業が、2020年に大きな転換点に立っている。国内最大で世界3位の鉄鋼メーカー「日本製鉄」(以下、日鉄)が、2020年3月期に4400億円という1934年に創立されて以来過去最大の赤字を叩き出し、子会社「日鉄日新製鉄」の呉製鉄所(広島県呉市)の閉鎖を発表したのだ。

「同製鉄所は、協力工場を含めて3000人以上が働いています。取引先の多くは中小企業で、合計2万人近くの従業員がいるため、この“大リストラ”が地域へ与える影響は計り知れません」(経済部記者)

 日本鉄鋼連盟によると、’19年の日本の粗鋼(鉄鋼製品のもとになる鋼)生産量は4.8%減の9928万トン。5年連続で前年の生産量を下回り、1億トンの大台を割り込むのはリーマンショックで景気が大きく落ち込んだ’09年以来だ。

「日鉄がこの“鉄鋼不況”を乗り切るために、リストラを検討しているという噂は昨年から絶えませんでした。しかし、今回の発表は予想をはるかに超えた大リストラでした。何しろ、呉製鉄所を’23年までに完全閉鎖し、これに加え和歌山製鉄所でも、鉄鉱石から鉄を取り出すための高炉を1基休止させる。最終的には日鉄の国内15基の高炉のうち4基を閉鎖し、今の粗鋼生産能力の1割(約500万トン)を減産する大胆なものです」(同)

 日本製鉄が、予想外の大リストラに踏み切った理由には一体何があるのか。鉄鋼業関係者は、原因として「米中貿易戦争」があると指摘する。

「日鉄は粗鋼生産量の4割を輸出していました。その大半を支えてきたのが自動車などの製造業向けの鋼材需要です。ところが、中国国内の自動車販売に目を向ければ、’19年新車販売台数(中国当局発表)は前年比8.2%減の2580万台弱。これは米中貿易戦争の余波といわれ、日鉄の鉄鋼需要に大打撃を与えています。米中貿易摩擦の影響で今後の景気見通しも立たず、設備投資を控える企業が増加。産業機械や工作機械での需要も減少し、世界中で鋼材需要が減少する『鉄冷え』が起きているのです」

 つまり米中貿易戦争の中で起きた世界的「鉄冷え」を乗り越えるため、日本製鉄は大改革に乗り出したのだ。
「世界の鉄鋼需要が低迷しているため、世界の粗鋼生産能力は約4割が過剰状態なのです。そのため、日本や欧州では話し合いの場を持ち、生産の調整に努力しているほどです」(同)

 ただ、世界鉄鋼協会が公表した’19年の世界粗鋼生産量は、前年比3.4%増の18億6990万トンとなり、3年連続で過去最高となっている。

「これは世界の市場動向を無視して中国が増産しているためです」(同)

 中国の’19年粗鋼生産量は8.3%増の9億9634万トン。4年連続で前年を上回り、過去最高を更新した。世界市場に占める中国の比率は約53%となり、現状のペースで増産が続けば’20年には世界で初めて生産量が10億トンを超える可能性がある。

「中国も過剰生産を知り尽くしていて、一時は構造改革で減産にも取り組んでいたのですが、過去10%台で飛躍していた中国GDP(国内総生産)が昨年は6%台に落ちた。そのため中国は、国が鉄鋼増産という景気刺激策に打って出たのです。ただ、中国で余った鉄が安値で世界に輸出されれば、世界の鉄鋼業界は混乱することになる。日鉄の大リストラは、そんな暴走する中国リスクを睨んだ対策でもあるのです」(経営アナリスト)

 さらに日鉄の大リストラには「国際競争力の強化」という目的もあるという。

 かつて、日本の鉄鋼業は世界のトップランナーだった。しかし、今や韓国や中国の後発企業が技術力を上げ、日本を追い越している。

「例えば、韓国の鉄鋼大手『ポスコ』や、中国の中国鉄鋼最大手で世界2位の『宝武鋼鉄集団』は、収益力で日鉄の2〜3倍に達する。後発企業は最新設備を投入できるので、生産能力が格段にアップしているのです。日本製鉄は勢いある海外勢に対抗するため、大リストラで余剰設備を整理し、投資を集約することで収益力アップを図ろうとしているのです」(前出・鉄鋼業関係者)

 宝武鋼鉄集団は、鉄鋼世界最大手の『アルセロール・ミッタル』(欧州)の粗鋼生産能力を’21年に超え、トップを狙う勢い。

「そうした中国勢などに日鉄が打ち勝つには、昨年、アルセロールとインド大手鉄鋼会社を共同買収したような動きを加速させ、さらに国内他社との再々編も視野に入れた動きが必要です」(同)

 大リストラが吉と出るか、凶と出るか。

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