CLOSE
トップ > 社会 > 本好きのリビドー

本好きのリビドー

pic pic

提供:週刊実話

悦楽の1冊『半自伝的エッセイ 廃人』 北大路翼 春陽堂書店刊 2000円(本体価格)

★アウトロー俳人を俳句とエッセイでつづる

“鳥わたるこきこきこきと罐切れば”“へろへろとワンタンすするクリスマス”などの代表作からオノマトペ(擬音語)俳句の名手と呼ばれたのは秋元不死男。

 その長男で、のちに昭和30年代伝説の番組『シャボン玉ホリデー』を手掛けることになるプロデューサーの秋元近史が日本テレビの入社試験を受けた時のこと。面接の際に父親の職業を問われた彼は、素直にそのまま「ハイジンです」と答えた途端に居並ぶ重役連の表情が一変。皆一斉に眉をひそめ沈痛な面持ちで、やがて「それは気の毒になあ」とため息まじりに呟いたとか…これは戸板康二の「ちょっといい話」に出てくるエピソードだが、その点、著者のたたずまいは俳人=廃人とイコールでつなげるより「ハイ」な「人間」としての「ハイ人」だろう。

 言葉に対する恍惚・忘我・陶酔・酩酊感に突き動かされての作句ぷりが、まさに“ランナーズ・ハイ”のハイの意味(症状?)に似て。

 限りなく自由律のように奔放とみえて定型を守り、定型の約束は守られつつも端正と乱暴が鷹揚に同居する句風が素晴らしく、著者の人生と芸術に切れ目のない“一分の一”感が、本書のどのページにも快活にみなぎってとにかく潔い。

 中にはもはや一見俳句ですらなさそうな作品もあって、自筆で書かれた“ウォシュレットの 設定変へた奴殺す”には思わず笑ってしまったが、これとて見方によればかつて前衛華道の中川幸夫が白菜をまるごと活けて「聲なき肉聲」と名付けた瞬間に相通ずるものを思わせて鮮か。

 無頼だのデカダンだの破滅型だのと殿堂入りの死語で形容はすまい。しかし、どこか懐かしい文士の匂いがする著者は、どんな卑語をも黄金に変える俳句のミダス王だ。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】

『決定版 面白いほどよくわかる!家紋と名字』(西東社/1000円+税)という1冊を読んだ。

 誰もが必ず持っている「名字」と、普段は気にかけないものの墓などに刻むことが半ば慣例となっている「家紋」。自分の名字の起源は? 家紋にはどんな由来があるのか? 楽しいウンチクが満載だ。

 まず家紋についてだが、戦国大名たちが合戦のときの旗印に家紋を付けていた例が紹介されている。天下分け目の一戦といわれた関ヶ原の戦いの屏風図には、東軍・西軍入り乱れて家紋だらけ。有名どころだけでも徳川家康の「三つ葉葵」、石田三成の「大一大万大吉」、黒田長政の「藤巴」、島津義久の「丸に十文字」。

 他にもさまざま…我が県の殿様は、いったいどんな家紋だったか、見つけるのも一興である。

 そして、そうした家紋がどのように庶民に伝わっていき、我々が使うようになったかまで解説されている。

 一方の名字は、例えば「斎藤」。じつはこの名字、伊勢神宮の神職「斎宮頭」(さいくうのかみ)からきている由緒あるものらしい。だが、同じ読み方で漢字が違う「斉藤」もあり、こちらとの違いは?

 また、平民が名字を付けることを義務付けられたのは明治時代からだが、どうやって名字を付けたのか? 「名字は?」と役人に聞かれ、名前を聞かれていると勘違いした女性が「おふくだ」と答えたら、「福田」となってしまった、なんて例もあるらしい。

 由緒ある一方で、いい加減。日本人は面白い。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

【話題の1冊】著者インタビュー 尾島正洋
総会屋とバブル 文春新書 800円(本体価格)

★日本経済の復調の道をくじいた総会屋

――1982年10月1日の改正商法施行で総会屋が激減したといいます。なにが起こったのでしょうか?
尾島 それまで株主総会には、たった1株しか持っていない総会屋が山ほど押し寄せ、経営陣にさまざまな要求を押し付けてきました。しかし、単位株制度が導入されたことで、ある程度資金力のある者しか生き残ることができなくなったんです。利益供与罪が同時に新設され、総会屋に資金を提供した企業と、金を受け取った総会屋双方に“6カ月以下の懲役、又は30万円以下の罰金”が科せられることになりました。
 この効果は絶大で、施行前は全国に約6800人いた総会屋が、施行後は1700人ほどに激減しました。一方で、知恵のある、力を持った総会屋が生き残るという皮肉な結果を招いたとも言えます。

――しかし、その後も利益供与が発覚し、摘発される企業が相次ぎました。なぜだったのでしょう?
尾島 総会屋が狙うのは、より消費者に近い川下の企業です。特に食品業界やデパートはイメージを重視しますので、株主総会が長引くことは体裁が悪い。スキャンダルを極端に嫌うので、総会屋が食い込みやすいんです。特にバブル時代は、企業の不祥事がたくさんありました。力のある総会屋には次々と情報が集まってきますので、企業はそれらを隠蔽するために総会屋に莫大な金を払っていたのです。

――’97年の『総会屋利益供与事件』は世間を震撼させましたね。
尾島 まず野村證券が総会屋の小池隆一氏へ利益供与していたことが発覚しました。小池氏は第一勧業銀行(現みずほ銀行)から融資という形で300億円近くの資金を得ていて、これで4大証券すべての株を大量に所有し揺さぶりをかけました。“信用第一”の金融機関が最も親しかったのが闇社会だった実態が明らかになりました。総会屋にすれば4大証券はおいしい餌だったんです。
 この問題が罪深いのは、バブル崩壊後、日本経済が復活するきっかけがあったのに、復調の施策がすべて水の泡になってしまったことです。総会屋と癒着した企業の責任は重大です。

――現在、総会屋と企業の結びつきはどうなっているのでしょうか?
尾島 今はかつてのような総会屋はほとんどいないでしょう。いまだに企業が総会屋と交際していたら大問題に発展します。総会屋に金を払う企業はないでしょうね。現在は投資ファンドなど“物言う株主”が合法的な立場で、企業に要求をする時代になっています。
_(聞き手/程原ケン)

尾島正洋(おじま・まさひろ)
ノンフィクションライター。1966年生まれ。埼玉県出身。早稲田大学政経学部卒。’92年、産経新聞社入社。警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、国税庁記者クラブなどを担当。’19年3月末に退社しフリーに。

社会→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

社会→

もっと見る→

注目タグ