家族や知り合いも、京子さんが失踪する理由などまったく思い当たるものはなかった。また、人柄の温厚な京子さんは、ヨガ教室でも慕われており、知人や友人関係でもトラブルになった形跡はない。
ただし、事件に深く関係していたと見られる人物は、早い時期から浮上していた。当時、京子さんと交際していた米川源次郎(61)である。
米川は地元の新聞社に勤務し、整理部次長にまで出世して、事件の前年に定年退職していた。そして、6年ほど前に趣味である山歩きを通じて京子さんと知り合い、彼女が教えるヨガ教室にも通うようになる。そして、京子さんと男女の付き合いを始めるようになっていく。
しかし、彼女と知り合って交際を開始した頃、米川には妻子がいた。そして、2001年頃には家族と別居し、名古屋市内のマンションに移り住んで京子さんとの交際を満喫していた。
ただし、彼女との交際は続けていたものの、離婚はしていない。
実は京子さんが失踪したその当日、家族に「初詣には米川と一緒に行く」と告げていた。
警察も当初、米川が何らかの事情を知っているとみて任意で話を聞いていた。だが、米川は「初詣には自分の家族と行くことになったので、京子さんとは一緒に行っていない。彼女とは大晦日に名古屋市内で会ったのが最後。事件当日は、彼女に『初詣には一緒に行けなくなった』と携帯電話で話しただけ」などと述べた。
事件当日、米川にアリバイはなかった。だが、そのすらすらと供述するその話し振りに、捜査員も強い姿勢を取れなかった。何を聞いても、よどみなく答える。戸惑う様子もない。
そこで、警察は事件と事故の両面から捜査を続けていた。
しかし、地道な捜査の結果、やはり米川に疑惑ありとの見方が強くなっていった。そして、警察は再び米川を追及したところ、ようやく「京子さんを殺して遺体を山に捨てた」と自供した。
そして、10月15日の午後、愛知県犬山市善師野の山林で、変わり果てた京子さんの遺体が発見された。彼女が失踪してから、実に10か月が経過していた。(つづく)