食料自給率が先進国で最低の40%とはるかに低いわが国の現状を、安全保障の面から心配する声は少なくない。確かに中国をはじめ、急成長をとげる発展途上国では、人口爆発によって食料需要が伸びることは明らか。世界規模で食料の奪い合いがはじまるのもそう遠くない未来だろう。
食料を切り札に外交交渉をされてはたまったものではない。
「確かに現状のままでいけば日本の農業に未来はないですね。1990年に約6兆円あった農業の純生産は2005年には3.4兆円になりました。農業の総産出額は8.5兆円と、パナソニック1社の売上9.1兆円におよびません。年齢別の農業就労人口は70歳以上が46.8%を占め、35歳以下はたったの8.5%です。国民の食を支えているのは70歳以上のお年寄りで、しかも収入は半減しています」(経済アナリスト・清水崇氏)
日本の農政問題の発端は戦後GHQの農地解放政策にある。農地解放によりおびただしい中小自営農家が現出した。さらに戦中の東條内閣の統制経済下で施行された食管法により、米はすべて政府が買い上げることになった。
「農業技術の発展により単位面積あたりの収穫量は増加しましたが、中小規模の経営では国際競争力は育まれません。さらに食文化の変化で米の需要が低下し、米価の維持は国家的な介入を余儀なくされました。国家の買い上げ高は、販売価格との逆ザヤを生み、国庫の負担を増大させたのです」(関係者)
現在輸入米の関税率は800%、それと裏腹に減反政策がある。この農業政策は本当に国民のためになっているのだろうか。国民は高い米を買い、農家は作地面積を減らさざるを得ない状況にある。このままでは日本の農業は崩壊する危険性が高い。
「日本の農業再生のために何が必要なのか。減反政策により、埼玉県ほどの面積が休耕田として放置されているし、環境問題の面からも、畑での植物栽培は重要な酸素供給源ですからね」(前出・清水氏)
製造業の短期労働者の解雇も深刻化。この多数の失業者が一次産業に向かわないことが問題である。そこには雇用の安定性、将来性などさまざまな問題が山積している。
日本の農業技術は世界で評価され始めている。上海の中国富裕層は日本産のリンゴに付加価値を認め高価で買い求めるなど、その農業技術は世界が認めるところ。しかし現状では技術を継承することすら難しい。石破農水相は減反政策を直ちに廃止すると言っているわけではなく、日本の農業を再生するための問題提起だった。
現在、6000を越す農業法人が活動を始めている。農業法人の利点は就労の安定化、信用力の増強にある。現職農家が集まって法人を立ち上げるのが主流だが、より自由な設立が望まれる。
石破農水相も語っているが、減反政策は象徴的な問題といえる。日本の農業がいかに国際競争力を持ち、若者にとって魅力があるか。また将来発展する可能性のある分野であることを明らかにする政策こそが肝要である。