最初は勤務先の上司に連れられてやってきたTさん。お堅い公務員で、真面目そうなんだけど、顔立ちは今人気の向井理に似た感じで、ちょっとイイかなぁなんて思っていました。でもまぁ、この手のお客さんは長くは続いてくれないだろうなと思っていたし、それっきりだろうと思っていましたね。
ところが1週間後に、不意にそのTさんがやってきたのです。キャバクラのシステムも何も知らないTさんでしたが、来店して私に接客して欲しい旨を話してくれたそうです。もう来てくれないと思っていた私にはもちろん、とっても嬉しいことです。ところが、目を疑ったのは次の瞬間です。Tさんの背後に和泉元彌ママ似の中年女性が…。そう、お母さんと2人での来店だったのです。
キャバクラに女性客…皆無ではありませんが、珍しいことです。しかも、いい歳した男性がお母さんとなんて私には前代未聞です。とはいえ、一応、プロですから朗らかに席につきお仕事スタートさせました。
お母さんに自己紹介すると、見るからにムッとしています。そして、まるでドラマのように開口一番「息子が女性と交際することは一切認めません」と切り出しました。呆れた独り言でしたが、私はまあ冷静に「素敵なお母様ですね。ここまで息子さんに愛情を注げる母親はそういらっしゃいません」と切り替えしました。
なんでも、Tさんは36歳の今まで女性との交際経験なし。舞い込む見合い話は全てお母さんが断ってきたそうです。アタックしてくる女性にはお母さん自ら出向き、壮絶に打ちのめしてきたのだとか…。
今回の来店も「女性のいる店で飲んだ」というTさんの言葉に激怒したお母さんが言い出しての来店だったそうです。ところが、何を切り出されても褒めて切り返す私にお母さんは拍子抜けしたのか、次第に楽しくなっていってしまったみたいなんです。
趣味のお華や着物の話ですっかり盛り上がって、お母さんは時間も忘れて盛り上がっていってくれました。
ほっと一安心でしたが、驚いたことにその後は、お母さん一人で度々お店に顔を出してくれるんです。いまでは常連客の一人かも…。もちろんTさんは一切来ませんし、「息子の嫁に」などとは言われません(苦笑)。お母さん自身がキャバクラの接客術にハマってしまったみたいです。
*写真は本文とは関係ありません
【写真提供】新宿レジェンド