内でこらえるウオッカ、外から鋭く追い込むオウケンブルースリ。鼻面を併せてゴールに飛び込んだ2頭のマッチレースは写真判定の末、ハナ差でウオッカに軍配が上がった。
秋2戦の毎日王冠、天皇賞・秋は、ともに1番人気を裏切り(2)(3)着に惜敗。泣いて馬謖(ばしょく)を斬るかのごとく、主戦を務めてきた武豊騎手からルメール騎手にバトンを託して挑んだ今回は、陣営にとっても背水の陣だったに違いない。確定の瞬間、スタンドの大歓声とともに検量室では感極まって涙する関係者も見られた。
レースは好スタートからスッと好位をキープ。舌がハミを越した状態で追走する姿は、まさに舌なめずりする肉食系女子そのもの(?)。それでも、この日のウオッカは鞍上とケンカすることもなく、とても“いいコ”だった。ペースが上がり始めた直線手前、外にいたヤマニンキングリーが先に動いても、ルメールの「ちょっと待った」に、はやる気持ちを我慢させた。このひと呼吸遅らせた仕掛けが最終的に大きな大きなハナ差につながったのかもしれない。
「道中は落ち着いてうまくリズムに乗れたが、直線を向くときに行きたがるところがあった。でも、直線は長い。ためにためてパワーを温存したかった」
かつてJCはコスモバルク(2004年)、ハーツクライ(05年)で悔しい2着があるルメール。久しぶりにめぐってきた雪辱のチャンスに彼は冷静に対応した。
“初対面”は1週前の追い切り。陣営と綿密にミーティングを重ねるとともに、パートナーの背中を通して特徴をつかむことに努めてきた。準備期間はたったの10日余り。それでも、しっかりと結果を出すあたりが世界の名手といわれるゆえんだろう。
「(レースに)乗る前から楽しみだったし、乗れたことに感謝している。ウオッカはチャンピオン!」。青い瞳の貴公子は、自身初のJC制覇に喜びを爆発させるとともに、愛馬の労をねぎらった。
この日の勝利は、ウオッカにとっても記録尽くし。日本の牝馬による初のJC制覇はもとより、シンボリルドルフ、テイエムオペラオー、ディープインパクトに並ぶJRA通算7つ目のGIをゲットした。
しかし、その代償も大きかった。レース後に鼻出血を発症していることが判明。1カ月の出走停止となり、有馬記念には出走できなくなった。
年が明ければ6歳。お母さんになるには適齢期でもあり、引退もひとつの道としてある。だが、このまま現役を去るのも惜しい。JRA・GI8勝目という前人未到の大記録がかかるほか、まだ手にしていない海外GI制覇というビッグな夢も残っている。婚活か、キャリアウーマンを地でいくのか、陣営は究極の選択を迫られることになった。