ベガ、アドマイヤドン、アドマイヤムーン…数々の名馬を育て上げてきた松田博調教師が、それらを凌駕(が)するだけの可能性をブエナビスタに感じている。
「とにかく、余計なことをする必要はない。普通の状態で出走できれば、それで十分。あとは自然と結果を出してくれるだろう」
桜のつぼみがまだ硬かったころから、満開の今まで、何度も繰り返してきた言葉をまた口にした。
揺るがない。馬の状態は日々変わるもの。この時期の牝馬ならなおさらで、フケと呼ばれる発情もある。携わる人はそれだけ神経を尖らせるものだが、師にはそんなイライラがまったくない。お地蔵さんのようなおだやかな表情で馬をみつめるだけだ。
外から軽くひとまくりで圧勝した阪神JF。それ以来となった前哨戦のチューリップ賞も次元の違う強さを見せつけた。絶妙のペースで粘り込みを図るサクラミモザのリードは安全圏に見えた。だが、残り100メートルでブエナは猛烈な瞬発力を繰り出し、あっさりと差し切った。
1日に行われた1週前追い切りも圧巻だった。栗東DW、先行させた3歳牡馬オープンのキタサンアミーゴにあっさりと先着。6F82秒5、ラスト1F11秒7と実戦並みの切れ味だった。4日にもDWで6F89秒9、12秒1をマークしており、質量ともにパーフェクトだ。
実績、調整過程、どれをとってもスキがない。だから、トレーナーの言葉はどんどん強気になってくる。
「実戦でもケイコでも余分に走らないから故障がない。ストレスもなく、体も自然とふっくらしてきた。能力が能力だろ。ここはあくまでも通過点と思っている。この先、まだまだ活躍してもらわなあかんからな」
3歳牝馬あこがれの舞台、桜花賞を通過点と言ってのけた。その先に広がる夢は、牝馬3冠かダービーか、それとも海外遠征か。無限に広がる夢をしぼませないためにも、ブエナビスタは当たり前のことをするだけだ。
【最終追いVTR】DWで6F81秒1→65秒1→50秒9→37秒5→11秒5(直一杯)。前半はセーブ気味に進み、直線だけ仕掛けられた。最後は内の併走馬を豪快に1馬身引き離してフィニッシュ。馬体もはちきれんばかりで、デキは文句なしだ。