アジアマイルチャレンジの創設によって、質量ともにレベルの高い香港馬が参戦するようになった安田記念。結果的に日本馬2頭の明暗を分けたのは香港馬の存在だった。
レースはいつも通り、馬なりでジワッとテンに立ったコンゴウリキシオー=藤田騎手のペースと誰もが思った。前走のマイラーズCの絵が浮かんだはずだ。
が、ここでコンゴウに大誤算が生じる。向正面で香港馬エイブルワンが掛かり気味に競りかけてきたのだ。レース後、藤田が「オレが英語をしゃべれたら」と冗談半分に言ったように、そこで「テンは譲るまい」と余分な体力を消耗し、終いの脚に影響を及ぼしたのは、クビ差2着の結果が証明している。
一方、コンゴウのマイペースを許さなかった香港馬の僥倖(ぎょうこう)に授かったのは、日本の総大将ダイワメジャーだった。瞬発力勝負を望まないメジャーの理想形は、前半スロー→上がり3F33秒台の決着ではなく、平均的なラップで流れるペース。「(もし、エイブルワンが絡んでいかなかったら)ペースが遅くなって、コンゴウが楽に逃げ切っていた」と安藤勝も吐露している。つまり、最初と最後の1F以外、11秒台のラップが刻まれたことが、メジャー最大の勝因といっていい。
さらに、先行馬に有利な馬場も味方した。メジャーとは対照的に、切れ味勝負を望む1番人気スズカフェニックスが5着に敗れたのはその象徴。「言い訳かもしれないけど、前優先の馬場では…」と天才・武豊も成す術なしの表情をしていたのが印象的だった。
ペース、馬場が味方しとはいえ、並み居る香港馬を完封したメジャー。もはや、ここ極東に敵はいないことを証明して見せた。しかし、世界で勝つためには平均ペースをつくり出せる逃げ馬がどうしても必要。日本ではなじみの薄いペースメーカーを帯同させることも考える時季がくるかもしれない。あくまで、陣営が再度の海外遠征を視野に入れているという仮定での話だが…。