しかし、昨年のデータが今年に当てはまるとも限らないという。
「自然災害の中でも土砂災害はエリアごとの平均値がわかりづらい。何年も被害の少なかったエリアでいきなり数値が跳ね上がることも珍しくない。特に異常気象が注目され始めたここ8年間の発生件数データと、昨年だけのデータを比べてもその違いは大きい。8年間の発生件数全国5位の熊本が、昨年のデータだけを見ると比較的安全なエリアとなってしまうのです。ただし、島根から岡山、山口、そして今回甚大な被害に襲われた広島を含む中国地方は、広範囲にわたって発生件数が突出している。今後、異常気象がさらに深刻化するようなら、抜本的な防災対策は不可欠になってくるでしょう」(サイエンスライター)
しかも、土砂災害危険カ所の約52万件のうち、警戒区域に指定されているのは35万カ所に留まっている。
「警戒区域の中でもさらに危険性の高い区域は特別警戒区域に指定され、場合によっては建物の移転勧告も出されるのですが、行政側の予算や人手不足によりこの切り替えが遅れている地域もある。今回被害に遭った広島市安佐南区の八木や緑井地区なども同様で、処理が遅れ警戒区域にさえ指定されず、住民への説明がなかった。このようなケースは全国各地にあるのです」(同)
地質に関しては、前述の「真砂土」が広がる土地は広島市に限らず、岡山県全域や兵庫県神戸市などにも多いという。
「これらの土地は、集中豪雨に限らず、度重なる長雨によっても簡単に崩壊する場合がある。さらに、宅地開発によって土砂災害の発生する確率が高い場所も増加傾向にある。平地に土地がなくなり山際の斜面に住宅を建てる流れは仕方のない部分がありますが、危険と隣合わせであることは意識しなければなりません」(同)
広島での土砂災害後も、集中豪雨は全国各地で発生した。24日、前線の影響で大気の状態が不安定になり、北海道の礼文島、京都府福知山市、大阪府池田市などで記録的な大雨となり、礼文島で土砂崩れが発生して住宅1棟が全壊し、住人の女性2人が死亡した。
9月いっぱいまでは台風シーズンが続く。温暖化などの影響によりそのスケールは大きくなるばかりだ。前出の井坂氏は、「台風も心配ですが、今後は秋雨前線と台風がセットで襲うので注意が必要です」と言う。
前線が停滞して大雨になっているところへ台風が接近してくると、台風の周囲に吹き荒れる強風によって暖かく湿った空気が運ばれてくる。当然、前線は刺激され、積乱雲が発達するのだ。
「竜巻も発生しやすい栃木県などは、9月でも30℃に達する日が多い。水分をたっぷり含んだ風は上昇しながら冷やされて雲粒になり、積乱雲を作り出す。これが南から入った風が北関東の山岳部にぶつかって発生する上昇気流に乗り、高度1万5000メートル前後にまで達して『スーパーセル』と呼ばれる巨大積乱雲ができることもある。これが超集中豪雨をもたらし、一気に地盤を緩めるのです」(前出・サイエンスライター)
最後に井坂氏も警鐘を鳴らす。
「今のコンピューターでは台風のようなスケールの大きなものは予測できても、積乱雲のようなスケールの小さいものは計算できない。都市部ではヒートアイランド現象もあるし、日本中、ここなら安全というような地域はないのではないでしょうか」
自分の命は自分で守るしかない。