「“万年候補”とされる松井秀喜氏に、巨人の監督に就任してもらうための布石です。春川氏のもとに巨人から国際部長就任の打診があったのは昨年11月。原辰徳監督の就任が発表されたのは同10月23日。巨人は松井氏を次期監督の第一候補として交渉してきましたが、結果、実りませんでした。そこで、松井氏の意向に沿って、春川氏獲得に動いたのです」(ベテラン巨人担当記者)
今回、松井氏が巨人監督を蹴った理由は2つある。
1つは、いわば身代わりで巨人監督に就いた後輩の高橋由伸氏が事実上解任され、その後釜に座ることを潔しとしなかったこと。もう1つは、米大リーグ・ヤンキースのGM特別アドバイザーとして取り組んでいる若手選手育成や海外選手のスカウト活動に、やり残したことがあると判断したからだ。
「その気持ちをくみ取って巨人は春川氏を採用し、松井氏の住むニューヨークに送り込むのです。春川氏は関西大学硬式野球部出身で野球にも詳しく、読売テレビ入社後は、主に報道畑を歩み、ロサンゼルス支局長も4年間務めました。国際派で語学も堪能。米国の政界、経済界、スポーツ界に人脈を持ち、巨人がパートナー契約を締結するヤンキースにも顔が利きます。松井氏の仕事を結実させるのに、これ以上の人物はいません」(同)
松井氏が頑ななまでにニューヨークにとどまっているのは、巨人からメジャーリーグに転身した第一人者として、大きな使命感を抱いているからだ。米大リーグ(MLB)と日本プロ野球(NPB)の関係をさらに強固なものにし、長年の夢だった日米の公式戦による「交流戦の実施」、日本のプロ野球王者とMLBチャンピオンズによる「リアルワールドシリーズ創設」、それを橋渡しできるのは、日米の名門チームで4番を張った自分以外にいないという自負がある。
「これらは孫正義ソフトバンクオーナーなどパ・リーグ側が主導してきた計画だが、情勢が変わった。巨人に日本一を狙える戦力が整ったことで、読売グループが本腰を入れたんだ。そのキーマンが松井氏。あと一歩のところまで漕ぎ着けたと判断したからこそ、監督を断った松井氏のもとに強力な助っ人の派遣を決定した。この壮大な計画が実現すれば、松井氏は、巨人監督は言うに及ばず、NPBのコミッショナー就任という道も開けてくる」(巨人OBの野球解説者)
原監督は3年契約。よって、松井氏が巨人監督に就くのは早くて2022年シーズンから。一方、ソフトバンクをはじめ、阪神、横浜DeNAも水面下で松井監督招請に動いており他球団のユニホームを着ての日本球界復帰も皆無ではない。
つまり、巨人は松井氏を囲い込む必要があり、あと2年は日米野球の連携を緊密にする仕事に専念してもらって、その後に巨人監督に就任させるシナリオだ。
この計画をより確実なものにするために用意したのが「将来のプロ野球コミッショナー」なのである。
それともう1つ。今、MLBは「新ルール」導入へ向けた動きが本格化している。背景にあるのが、本塁打数が大幅に増え、その一方で三振数が安打数を上回るという現象だ。「飛ぶボール」や「筋肉増強剤」という物理的な要因ではなく、打者の「ホームラン狙い」という、これまでなかった心理的変化がある。
近年、MLBはセイバーメトリクスなど、野球のデータに裏打ちされた数値化が進んだ。アナリストが解析した各打者の打球データをもとに、打者ごとに極端な守備シフトまで敷く戦略を目にすることも珍しくない。そのお陰で、通常なら安打だったはずの打球がアウトになっている。
そこで各打者たちは、ボールをすくい上げる「フライボール主義」に転向。守備位置に左右されない本塁打狙いが主流になったのだ。
これにより三振も増え、大雑把な試合内容がMLBでは目に付くようになった。そこでMLB側はバッテリー間の距離を現在の18・44メートルから60・96センチ伸ばし、守備シフトの禁止とともに、ホームラン封じを検討しているのである。実際、MLBと3年間の業務提携を結んだ米独立リーグで実証実験も進められている。
「日本でも巨人の伝統打法だったダウンスイングは影を潜め、フライボールが全盛です。日本の野球はメジャーに“右に倣え”で、MLBがマウンドと本塁の距離を延長すれば、いずれ日本もそうなるでしょう。とりわけ、マウンド間の距離の変更は、変化球が生命線である日本人投手に与える影響は大きく、これにより盗塁数も増え、野球そのものが変わる可能性があります。こういった変更事項は7点も俎上に上がっており、そういった情報をいち早くキャッチするのも春川氏の役目なのです」(前出・記者)
3年後の松井巨人監督、その先の松井コミッショナー就任。これらを見据えて、読売グループによる仕掛け人として送り込まれた春川氏。顔も松井氏好みのミスター顔。期待は大きい。