ことの発端は、JTが先に発表した大型リストラ策だ。たばこを製造する郡山工場(福島県)と浜松工場(静岡県)、さらに岡山印刷工場(岡山県)の3工場を2015年3月末で閉鎖。平塚工場(神奈川県)も'16年3月末で閉鎖する。結果、28年前の民営化当時に35あった国内の工場は、わずか4つに集約される。
同時に葉タバコ処理の東日本原料本部(福島県須賀川市)、たばこ自動販売機を製造・販売する特機事業部(兵庫県)も廃止する他、国内25支店を15支店に統廃合し、これに併せて現在約8900人の本社勤務社員を対象に、退職勧奨や希望退職で1600人を削減するという。
企業存亡の危機に陥っている会社ならばともかく、JTは9月中間期の連結純利益が過去最高を記録、来年3月期も過去最高を更新する見通し。そのJTが情け容赦ないリストラの大ナタを振るう理由は何なのか。
「国内たばこ市場は、健康意識の高まりや喫煙場所の制約などで縮小が止まらない。そのためJTは'99年に9600億円で米RJRナビスコの米国外たばこ事業を買収、次いで'07年には2兆2000億円を投じて英ガラハーを買収するなど、成長を海外に託した結果、今や世界3位の会社に躍り出た。一方、国内は前述した理由から低迷が続いている。だからこそリストラ発表会見で佐伯明副社長は『問題を先送りするのではなく、市場の縮小に素早く対応することが最善』と、好業績下での苛烈リストラの理由を説明したのです」(JT関係者)
しかし、市場筋は「それは表向きの理由。秘めた理由がある」と明かす。JT株の1.37%を保有し、物言う株主として知られる英国の投資ファンド、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドが、にわかに存在感を増してきたのだ。
「あのファンドは転んでもタダでは起きません。6年前にはJパワー(電源開発)の株を大量に買いあさり、増配要求と役員派遣で会社を揺さぶった。これを拒否すると、さらなる買い増しを宣言し、政府が『公の秩序維持の妨げになる』として買い増しの中止を命令、最終的には会社側が全株を高値で買い戻すことで手打ちしている。このウマい汁を吸った青い目ファンドが、今度はJTに牙を剥いたのです」(経済記者)
同ファンドがJT株を買い始めたのは2年ほど前のようだ。それを踏まえて昨年、今年と2年連続で株主総会に増配と自社株買いを要請したが、いずれも否決されている。しかし、その程度で“狙った獲物”から撤退するわけがない。JTウオッチャーがいう。
「ザ・チルドレンズとJTは密かに接触している。JTが今年の3月に2500億円分の自社株買いを実施したほか、来年3月期に24円増配して92円配当を実施するのも、そんな手打ちの産物といえます」
増配の結果、今年3月期で38%だったJTの配当性向は来年3月期に40%に高まる。再来年には50%にする予定で、くしくもザ・チルドレンズのかねての要請と一致する。だからこそ、JTウオッチャーは辛らつだ。
「JT経営陣が、投資ファンドと無用の軋轢を避けるべく保身策に汲々としているのは明らか。この分だと工場用地を始め、リストラで調達する巨額マネーをソックリ配当に回し、連中の懐だけを潤しかねません。株主重視といえば聞こえはいいが、要は高額配当にありつきたい青い目ファンドの“忠犬ハチ公”なのです」
それを裏付けるかのように、同社は今年3月末時点で海外投資家の保有比率が35.7%に達した。ことのよし悪しはともかく、どうやら「投資家に報いる極めて物わかりの良い会社」ということは、世界中に知れ渡っているようだ。
「これが理由か、それとも秘めた魂胆があるのか、ソニーの大株主に躍り出て経営陣を揺さぶっている米投資ファンドのサード・ポイントが“密かにJT株を買いあさっている”とのアングラ情報がある。好決算下に打たれたリストラ策の本質を知らない個人投資家が群がって株価は急騰しており、短期決戦ならばソニーよりも面白く見返りも大きい。市場には『やっぱりサード・ポイントの嗅覚はハンパじゃない』と囃す声さえ聞かれます」(大手証券マン)
JTは3月に自社株買いを実施したことで、政府の保有比率が50%から33.3%に低下した。あのJパワーにしても、'04年の上場までは国策会社だった。
マネー錬金術に鵜の目、タカの目になる外資にとって、親方日の丸体質を引きずる企業は“カモ”にしか映らないようだ。