裏番組の日本テレビ系『世界の果てまでイッテQ!』に引退を控える安室奈美恵が出演し、21.5%の高視聴率を叩き出したことも原因のひとつと言われている。ただ、わざわざ1時間の休憩を設けた上で実施した目玉カード・浅倉カンナ対RENAの瞬間最高視聴率も9.6%にとどまったという。「10%は目指したい」と話していた榊原信行実行委員長が危機感を募らせる気持ちが伝わってくる。
RIZINとフジテレビの契約内容に関しては知る由もないが、発表されている通り、今年の大晦日までは中継を継続するのは間違いないだろう。RIZINはその“猶予期間”中に、来年以降も中継する価値があると思わせる“爪痕”を残さなければならない。
ファンの間からは「なぜ地上波にこだわるのか?」「BSやCSで十分」といった意見も多数聞かれるが、現在、テレビ朝日系列で毎週土曜日の深夜に30分枠で『ワールドプロレスリング』を全国中継している新日本プロレスの木谷高明オーナーはかつて「地上波(キー局)と他では放映権料の桁が違う。あと下手にBSでやると『BSでいい』と局に思われてしまう。30分でも地上波の番組を持っている価値は大きいんです」と強調していた。その後、新日本はテレビ朝日との関係をさらに強化し、ストリーミング配信サイト「新日本プロレスワールド」を成功させ、地上波打ち切りの噂は一切出なくなった。
かつてのPRIDEは高額なファイトマネーが発生していた。PRIDEが軌道に乗るとともにファイトマネーを高騰させた選手も多い。外国人選手が大会の目玉だったため、地上波打ち切りに伴い開催が困難になり、最終的に試合のライブラリーも含めてUFCへ売却している。フジテレビがRIZINの中継で、かつて放送したPRIDE時代の映像を流せないのはこのためだ。もしライブラリーを使えるなら、惜しみなくVTRを使い、かつての格闘技ファンを取り戻そうとしたのではないだろうか。
現在のRIZINは那須川天心とRENAという“日本人男女ツートップ”を軸に、堀口恭司、矢地祐介、そして今大会で感動を呼んだ五味隆典らレジェンドと、浅倉カンナ、山本美憂らジョシカク(女子格闘技)の選手ら、日本人選手を中心に試合を組んでいる。今回は天心が欠場し、RENAも連敗するなど軸が崩れた大会となったが、RENAに連勝したカンナの支持率はさらに上がっている。カンナをいかに育てていくのかは、地上波を続けていく上で重要な課題と言ってもいいだろう。
かつて、視聴率が低迷したバレーボールの日本代表戦は、日本バレーボール協会、フジテレビ、ジャニーズ事務所がスクラムを組むことで、ゴールデンタイムでの地上波中継を継続することに成功している。今では手堅く高視聴率が取れる人気コンテンツとして、他局でも定期的に中継されるようになった。最初の頃はジャニーズのパフォーマンスが終わると席を立っていたジャニーズファンも最後まで試合を観戦するようになった。「会場に女子中高生を集めたい」というバレーボール協会の狙いも当たっている。
選手のキャッチコピーをはじめ、フジテレビのスポーツエンターテイメントの原点はバレーボール中継にある。その流れは、F1、K-1、PRIDE、柔道、体操、フィギュアスケート、そしてRIZINへと引き継がれているのだ。当日に中継すると「テレビで見ればいいよ」と思われてしまい、会場の動員数に影響が出るのも確か。ただ、やはり今は地上波で中継することが大事だろう。選手を知ってもらうことが最優先であるべきだ。
新日本プロレスも東京ドーム大会がテレビ朝日系のゴールデンタイムで中継されていた時代は、ビッグマッチが頻繁に組まれ、演出も今より派手だった。今ではかなり少なくなってしまった地上波でのプロ野球中継だが、「きょうは何で週末なのにナイターなの?」という場合はだいたい、地上波(主にNHK)が放送する日であることが多い。このような事例を見てもスポーツ中継にとって、地上波放送は一度捕まえたら離せない…いや離してはいけない大きな資金源であるのがよく分かる。
地上波のキラーコンテンツとなるように、RIZINには頑張ってもらいたい。
取材・文・写真 / どら増田