ここまで5戦3勝、2着2回。その敗れた2戦は前記2頭の後塵をそれぞれ拝したものだが、後述の橋口調教師の言葉を借りれば、勝負付けはまだ済んでいない。
「初戦の520キロは少し余裕残しだったし、ラジオNIKKEI杯(2歳S)は鞍上の過信もあった。その前の未勝利戦が強すぎたからね。坂のある阪神であの荒れた馬場では、ちょっと行きすぎ。ほかの人がどう見るかは分からないが、私自身はあの着差ほど力差があったとは思っていない」
勝負はこれからとばかり、トレーナーは皐月賞のテーマを「打倒アンライ、打倒ロジ」とし、「やられたらやり返すのがオレの生きざまだから」とキッパリ。いつもの温厚さはどこへやら、鬼の形相でライバル2頭へのリベンジを誓った。
一方で課題もある。レースを使うごとに減り続けてきた馬体重がそれだ。しかも、今回は関東圏への初遠征となる。
「カイバを食ってはいるけど、現状はそれが実についてこない。追い切り後の計量で508キロ。理想をいえば510キロでの出走だが、どれだけ輸送で減るかは分からない」
しかし、そんな不安を抱えながらも、ここまで闘志をあらわにするのは、愛馬のポテンシャルの高さを信じて疑わないからだ。
「1回速いところをやったときに、これはモノが違うと感じた。キャンターでもこれは遅いと思っていても、時計を見ると速い。調教師の免許をもらって30年、開業して28年になるが、見た感じと実際の時計がこんなに違う馬は今まで2頭しかいなかった」
その2頭とは、いまや日本を代表する種牡馬となったダンスインザダークと、日本馬で唯一、ディープインパクトに土をつけたハーツクライ。ともに橋口師が手掛けた名馬だ。しかも、現時点での完成度はこの2頭と比べてもリーチの方が上だという。
「ちょうど10年周期ですごい馬にめぐり合う勘定になるが、やっとまた回ってきたね。皐月賞もダービーも、3強の中から勝ち馬が出ると思っているが、皐月で負けるようだと夢がしぼんじゃうから」
名伯楽の澄み切った瞳には、まずは1冠! 3冠馬へのサクセスストーリーしか映っていない。