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年商600億!“プロレス界のメジャーリーグ”WWE日本公演に欠かせぬクリス・ジェリコ

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(C)広瀬ゼンイチ

 世界最大のプロレス団体、アメリカのWWEが6月30日、7月1日の2日間、毎年恒例となる日本公演『WWE Live Tokyo』を両国国技館で開催した。

 スモーアリーナ(国技館)にはWWEユニバースと呼ばれるファンが多数詰めかけ、6月30日は6069人、7月1日は8318人を動員。試合前のグッズ売場にはスモーアリーナの1階を1周するほど長蛇の列が見られる盛況ぶりで、会場内は和風とアメリカンな空気が良い感じに混雑していた。ディズニーランドや、USJに来たような感覚と言ったらわかりやすいかもしれない。あの自由な空気感は日本の団体には作り出せないだろう。キャラや英語、ストーリーが全く分からなくても、その場の空気感で理解できてしまうのがWWEの魅力であり、魔力である。ファンの「HAPPY!な気分になりに来ました」感がスゴイ。とにかく楽しんだモン勝ちみたいなムードが充満しているのだ。

 「WWE(当時はWWF)も観たことないのにプロレスを語れるのか?」

 昔、プロレスマスコミの先輩にこんな嫌味を言われたことがある。まだWWEがこのようなツアーを日本で開催していない時代。WWEを観るにはそれこそニューヨークに行くしかなかった。それが今ではハウスショーながら、年に一度は渋谷から30分の距離でニューヨークが体感できる。本当に良い時代になった。

 報道陣に渡された資料には、「スポーツエンターテイメント」を「ビジネス」として成立しているのがWWEだと記載されているが、上場企業であるWWEの年商は600億円を超えると言われており、プロレス界では断トツで世界一の団体。2位は日本の新日本プロレスだが、新日本の年商は約37億円とその差は歴然としている。

 WWEと新日本をはじめとする日本マット界の関係は、野球に例えるならMLB(メジャーリーグ)と、NPB(プロ野球)の関係に似ているが、決定的に違う点がひとつだけある。それはWWEに日本の団体に所属する選手が移籍しても日本の団体には移籍料が一銭も発生しないということだ。MLBとNPBは協定を結んでいるので、海外FA(フリーエージェント)権を行使しない限りは“希望球団に”移籍できないようなシステムになっている。しかし、日本のプロレス団体は単年契約が基本となっており、選手が契約を更新しなければWWEに移籍することが可能なのだ。

 WWEは『RAW』と『SMACK DOWN』という2大ブランドを軸に、『NXT』というMLBではマイナーリーグにあたる育成ブランドと、軽量級の選手に特化した新ブランド『205 Live』の4つのブランドをテレビ番組として制作。莫大な放映権料を収入源にしている。WWEのTVショーは2014年に開局した有料ストリーミングサイト『WWE NETWORK』により、全世界でライブ視聴が可能となった。日本では今年の4月から『DAZN』での配信をスタートさせた。

 『WWE NETWORK』の開設は、新時代に向けた投資であるとともに、世界制覇に動き出した証でもある。これまでも日本人選手や日本で活躍していた選手がWWEに移籍することはあったが、2014年7月にプロレスリング・ノアの主力選手だったKENTA(ヒデオ・イタミ)がWWEの大阪公演のリング上で、“超人”ハルク・ホーガンが立ち会いのもと契約書にサイン。2015年には新日本で育ち、IWGPジュニアヘビー級王者として新日ジュニアを牽引。2014年からは外国人ヒールユニット、バレットクラブのリーダーとして活躍していたプリンス・デヴィット(フィン・ベイラー)、そして昨年は新日本のトップ選手だった中邑真輔、AJスタイルズ、カール・アンダーソン、ドグ・ギャローズ(ルーク・ギャローズ)、ドラゴンゲートの主力選手だった戸澤陽がWWEに引き抜かれるような形で移籍している。WWEの日本侵攻は男子選手だけに留まらない。2015年に日本ではフリーだったが、各団体のエースを相手に活躍していた華名(ASUKA)が移籍すると、NXTでデビュー以来、連勝街道を突っ走りNXT女子王者に。デビュー以来174連勝というこれまでビル・ゴールドバーグが保持していた団体記録を更新する快挙を達成した。このニュースは世界中で報じられ、現在も連勝記録を更新中だ。そして、先日スターダムを退団したばかりの宝城カイリが、今回の日本公演開演前に会場のスクリーンに登場し、本人の口からWWEと契約し、カイリ・レインというリングネームでNXTでデビューすることが発表された。

 これまでは、英語圏とスペイン語圏に比べると明らかに劣る日本のマーケットはあまり重視されていなかった。しかし、WWEは次世代の主要コンテンツである『WWE NETWORK』の加入者を増やすためには、プロレスを見る文化が根付いている日本を外すことはできない。またバレットクラブのブレイクにより、バレットクラブTシャツを着たファンがWWEのTVショーに映し出されることもあることから、アメリカ進出を果たした新日本の存在も刺激したのは言うまでもない。

 日本公演ではこのような経緯でWWEに移籍した選手による凱旋マッチが毎年ラインナップされているが、初日のオープニングマッチに出場したヒデオ・イタミがブーイングが浴びせられる場面があった。これは対戦相手のクリス・ジェリコが、日本マットで名と実績を上げてWWEのトップにまで登り詰め、現体制になってから初となる日本公演(2002年3月1日 横浜アリーナ)ではメインイベントでザ・ロック(のちにハリウッド俳優としても活躍しているドウェイン・ジョンソン)を破ったスーパーレジェンドということも影響している。ジェリコは、WAR(かつて天龍源一郎が代表を務めていた団体)でライオン・ハートのリングネームで定期参戦していたとき、現在は新日本のCHAOSで活動している邪道、外道、そして故・冬木弘道さんとともに冬木軍のライオン道として行動をともにしていたことがある。WARが国技館を定期的に利用していたので、初来日のWWEスーパースターたちに“テッポウ”の意味を教えたり、日本公演に自分の名前がないと「行かなくていいの?」と自ら志願するほどの親日家。ヒデオとの試合では日本の“第1試合”のようなオーソドックスなジャパニーズスタイルを見せてくれた。ヒデオにとってはほろ苦い凱旋マッチになってしまったが、2日目にジェリコと対戦したフィン・ベイラーは勝利を収めた後、ジェリコに最大限の敬意を払っていたように、ジェリコはヒデオやベイラーと同じ日本のジュニアヘビーからアメリカンドリームならぬ、ワールドドリームを掴み取った選手である。

 今回はRAWの選手を中心に構成された来日メンバーだが、ジェリコはSMACK DOWN所属。次回の日本公演は9.16エディオンアリーナ大阪公演が決定。中邑真輔、AJスタイルズらSMACK DOWNのメンバーが中心と発表されている。渋谷から30分のニューヨークに続いて、ミナミから5分のニューヨークである。そこにはきっとまたジェリコの姿が当たり前のようにあるはずだ。

取材・文/どら増田

※写真・(C)広瀬ゼンイチ

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