広い栗東トレセン中を秋風に乗って東奔西走する記者の耳に飛び込んでくるのは、各陣営のこのセリフばかり。いわずもがな、記者も全登録を見渡し、同じ思いを抱いていたが、栗東中学の同級生で三十数年来の悪友(現・友道厩舎スタッフ)にその仕上がり具合を聞きに厩舎を訪れると、友人は思いもよらない鬼の形相で、「この馬に関してはノーコメントやな。テキに聞いてくれ」と、吐き捨てた。
ワンマンオーナーや、マンモスブリーダーの意向に逆らっては、昨今の厩舎運営は困難とはいえ、最も馬の状態を把握しているのは馬の背中の柔らかさをだれよりも知る騎乗者。
とても記事にできないオフレコの裏話を、怒りの感情とともに腹に飲み込んだ記者が下した結論は、今春の天皇賞馬アドマイヤジュピタのノーマークだ。
そんな不協和音とは対照的に好ムードが充満していたのが“未完の大器”アルナスライン陣営。「天皇賞はもうちょっと早めに動いていれば結果(10着)も違っていたと思うんだけどね。レース後、全然走っていなかったのか、ケロッとしていたから」とよもやの大敗をサラリと振り返る指揮官・松元師の柔和な表情を見れば、いかにこのひと夏を順調に越せたかがうかがい知れる。
「間隔があいている分、まだ体には少し余裕があるが、うまくリフレッシュできたし、もともと、大型馬でもいきなり動けるタイプだからね。ギリギリ間に合った骨折明けの去年のこのレースでも初の古馬相手に堂々の3着。順調さを考えれば、今週のひと追いで十二分に力は出せると思うよ」と師。
「現時点では天皇賞は考えずにジャパンCを狙っているし、ここは勝ってぜひ賞金加算しておきたいんだ」
大いなる野望を前に、仕上げには一点の曇りもない。