ラストランを迎えるディープインパクトに、今年も超ド級の迎撃ミサイルがロックオン。国内で唯一、英雄が低空飛行のままレースを終えたこの舞台に、今年は稀代のマルチホース・ダイワメジャーがスタンバイだ。
A級戦犯という“栄誉ある”役目とともに、年度代表馬の座までも奪わんとするメジャー。競馬史上最凶の“ヒール”は、自ら望んでこの悪役を演じきる算段だ。中山競馬場が悲鳴の渦に包み込まれた昨年の歳末GP。それまで末脚一辺倒だったハーツクライが、まさかの先行策を取ったことから“悲劇”の幕は開けられた。平成の天馬にはあまりにも短い滑走路。セーフティーリードを保ったままのハーツに対し、ディープはこの短い直線で離陸できずにあえいでいたのだ。最後は半馬身差まで詰め寄ったが、2着が精いっぱい。競馬ファンならあの衝撃は今でも記憶に新しいはずだ。
その昨年の“惨事”がこの人の頭の隅にも浮かんだのであろう。メジャーを管理する上原師はニヤリと笑う。「確かにディープは強いし、2500mになると、これまでと流れは違うでしょう。でも、まずうちの馬のペースにはなるだろうね。前めで自然に流れに乗りながら、直線手前までにいったん(ディープを)離しておくような…」
明らかに昨年のハーツを意識したような言い回し。皐月賞、天皇賞・秋、そしてマイルCSで名だたる強豪馬を封じ込んできた2番手追走→直線先頭→終いもうひと伸び、という3段方式の勝ちパターンが、師の脳裏にはしっかりと描かれている。無論、一番のカギとされる距離についても策は練ってある。2200m以上では<0003>。数字だけ見れば苦しいが、「有馬出走が決まってから、調教で長めから乗っている。ただそれだけといえばそうかもしれないし、ひいき目かもしれないが、効果は出てきている」。
名門・藤沢和厩舎が長距離戦対策に使うこの調教法。1週前追い切りの動きには、師の言う「効果」がはっきりと感じ取れた。Wコースで5F64秒8→50秒7→38秒0→13秒2(稍重、馬なり)。ほどよく気合が乗りながらも、決して馬に力みは見られない。終始リラックスした走りに、指揮官も「スムーズで流れるような走りだったね。馬の気持ちに任せて行かせようという考えだったんだが、67、68秒ぐらいの予定が、楽々とこれだけの時計が出るんだもの。とにかく馬は順調だよ」と戦前から破顔一笑だ。
ライバルには不得意なコースで、そのライバルの鞍上も、とかくこの有馬記念と相性が悪い。加えて相手陣営には相当量のプレッシャーもある。対して<2211>のベストコースにして、「来年も現役は続行しますよ」と、いい意味で切迫した状況になく、リラックス態勢のメジャー。いよいよ波乱のムードが現実味を帯びてきたのではないだろうか。