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徹底検証・徳川埋蔵金の真実 トレジャーハンター・八重野充弘 第12回 徳川埋蔵金に最も近い男(前編)

 トレジャーハンターの資質として最も重要なのは、情報収集能力と論理的思考力である。伝承や物証の内容を鵜呑みにせず、犯罪捜査のように自分の足で伝承のウラを取り、埋蔵の証拠を集め、「誰が」「いつ」「どこに」「何を」「なぜ」「どのようにして」隠したかというストーリーが成り立つかどうか、分析をしなければならない。ターゲットを徳川の埋蔵金に絞り、40年以上にわたってそれを実践してきた男がいる。渋川市在住の高橋喜久雄だ。

 筆者が初めて高橋と会ったのは1992年のこと。折しも赤城山麓でのTBSテレビの発掘番組が高視聴率を取っていたころで、テレビ朝日が二匹目のドジョウを狙って筆者の元へ相談に来た。ゴールデンタイムに埋蔵金発掘の生中継をやりたいという。
 場所はどこでもよかったのだが、TBSは素人が根拠もなく、ただショー的に掘って見せているだけだったので、同じ徳川でもっと可能性のあるところを掘ろうと提案した。二つの素材のリサーチとロケハンを同時に進めながら、最終的にはどちらか手応えのある方に絞り、本番で掘ることにした。

 このとき、筆者は古兵法研究家のAが突き止めたという場所を、『八門遁甲』的解釈の筋道をたどり、妙義、榛名、赤城の上毛三山のそれぞれのポイントを2カ月あまりかけて調べていたが、途中で論理的破綻が生じたため、高橋の説を取り上げることにした。高橋とは、筆者が当時埋蔵金秘話を連載していた雑誌の編集長兼社長の紹介で知り合ったのだが、小学生のころのある発見がきっかけで、埋蔵金に興味を持ったということだった。
 夏場によく泳いでいた沼田市上久屋町の片品川のほとりの崖に、直径1メートルほどの白くて円い岩があった。人工的に埋め込んだトンネルのふたのようにも見えるし、何かの目印のようでもある。その謎の解明に着手したのは、成長した10代の終わりごろ。もしかしたら、噂に聞く徳川の埋蔵金の隠し場所かもしれないと、遊び仲間数人と崖の上から命綱を下ろし、丸い岩を剥がしにかかったのだ。
 しかし、その奥にイメージしたようなトンネルはなかった。白い部分が剥がれただけ。ただ、その場所に腰を下ろして川の方に目をやると、対岸にまるで古墳のように見える小高い山があった。地元では「丸山」と呼ばれていた。

 丸山に近づいてみると、不思議なことがいくつかあった。自然の山のはずだが麓の一部が人工的な石積みに見える。また、頂上付近でジャンプすると異音がして、空洞があるような感じだ。常識的に考えれば大事なものを川べりなどには隠さないはずだが、ここは洪水になっても沈まない。
 さらに、村史の中の幕末のころの記述を細かく調べると、このあたりで川舟から大きな荷物が陸揚げされたり、夜、たいまつの明かりが目撃されたりしていることがわかった。

 高橋は八門遁甲的な痕跡も探った。白い岩を割るとき、崖の上に石の目印のようなものがあり、そこからロープを下ろすと、白い岩の真ん中に到達したことを思い出したからだ。八門遁甲では石を目印に使う。移動も消滅もしない“不動のもの”である。
 範囲を広げて調べてみると、何と次々にそのものズバリの「不動」が見つかった。丸山の北の上久屋神社、西の赤城山川龍寺、東の十二山神社に、不動尊が祀ってあったのだ。さらに南には、石尊と並んで鳳凰を抱いた不動明王が建っていた。そして、東西・南北の不動尊を結ぶラインの交点に丸山はあった。
 物理的探査も行った。頂上付近にかけた地中レーダーは、空洞と思われるものを捉えた。お膳立てが調い、後は本番で掘るだけ。

 '92年4月22日、テレビ朝日の『水曜特バン!』は、予定通り午後7時から放送された。しかし、結論を述べると、丸山を掘ることはできなかった。放送間際まで交渉を続けたのだが、地主が承諾してくれなかったからだ。仕方なく、丸山の可能性をさまざまな根拠を示しながら説明した後、そこからは至近の距離の片品川のほとりを掘った。もちろん、何かが出てくるはずもない。視聴者には申し訳ないが、お茶を濁しただけだった。

 丸山の状況は現在も変わっていない。まだ誰も手を付けられないでいる。諦めたわけではないが、丸山はあくまで候補地の一つ。高橋の地道な調査は以後も続いていて、御用金は赤城以北の複数の場所に、分散埋蔵されていると考えている。それは筆者の見解とも一致する。
 そのようなわけで、筆者は以来20年以上、高橋に協力して群馬県内の数カ所で発掘調査を行ってきた。
(続く)

八重野充弘(やえのみつひろ)=1947年熊本市生まれ。日本各地に眠る埋蔵金を求め、全国を駆け回って40年を誇るトレジャーハンターの第一人者。1978年『日本トレジャーハンティングクラブ』を結成し代表を務める。作家・科学ジャーナリスト。

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