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【コンピューターゲームの20世紀 66】無人島や墓場にまで持って行きたい心のゲーム『アドバンスド大戦略 ドイツ電撃作戦』

 近年では『ガールズ&パンツァー』や『艦隊これくしょん』のヒットにより認知度が上がったが、もともと第二次世界大戦の兵器というコンテンツは、一部のマニアに愛好される、かなりニッチなジャンルであった。もしくは筆者のように子供の頃にタミヤ・ハセガワ・アオシマなどのプラモデルを好んで製作していた層が、大人になってからも興味を持ち続けているというパターンもあるだろう。いずれにせよ日本で前大戦に関わりのある分野を愛好するというのはやや肩身が狭い思いをするものなのだが、前述の作品のおかげでそれはかなり和らいでいるように思える。ただ、かつて光栄の『提督の決断』が朝日新聞から批判され、中国国内で問題化されるなどしたように、非常にデリケートなジャンルであることは忘れてはならない。

 今回紹介する作品はセガから1991年に発売されたメガドライブ用ソフト『アドバンスド大戦略 ドイツ電撃作戦』。『大戦略』の名が指す通りシステムソフト社開発の同シリーズのシステムを元にしたゲームだが、同時代の本家の作品を遙かに上回る高いゲーム性が実現されている。そのシステム面は後述するとして、本作を開発したのは当時セガに在籍していた南人彰氏で、氏は本作の開発をきっかけにセガを離れ、株式会社チキンヘッド(会社自体は氏がセガ入社前から存在していた)の代表取締役として『アドバンスド大戦略』シリーズの開発に関わっている。

 本作のプレイを開始してまず驚くことはそのオープニングで、「この悲劇が繰り返されないことを願って」のメッセージの後に、いきなりヒトラーのアップと演説の音声が挿入され、さらに画面下にはハーケンクロイツの旗がたなびいているのだ。これは本作が第二次大戦中のドイツ軍を主役としているからで、南氏の歴史上存在した事実を改変することは逆に冒涜になる、という考えから入れられたのだが、海外、特にヨーロッパでは発禁ものである。先にも述べたが第二次大戦のゲームは一歩間違えれば様々な批判にさらされかねない。本作がもしも日本軍を主役にし、旭日旗がはためいていたらどうなっていたのだろうかと思う(続編では実際に日本軍が主役のモードも存在するが、特に問題視されることはなかったが)。

 閑話休題。本作がなぜこのような微妙な時代と国家を題材としたゲームであるのかと言えば、第二次大戦中はほんの数年でプロペラ機からジェット機へと発展し、戦車を中心とする陸上兵器も恐竜的進化を遂げており、この時代がシステムにマッチしていたこと。また、ゲームシステム的に海戦中心の日本軍は扱いにくく、兵器の種類が豊富で陸上戦中心であるドイツ軍が選ばれたというのが真相である。

 システム面に話を移すと、本作の基本は六角形のマス(ヘックス)で覆われたマップを基本としたターン制のシミュレーションゲーム(SLG)である。そのマップ上をプレイヤーが生産したユニットが移動し、敵のユニットと戦っていく。勝利のためには敵を全滅させるか敵国の首都を占領しなければならない。また、ほとんどのマップでは敵勢力が複数存在し、複数の首都を持つ勢力が多いため、1つのマップをクリアするには相応の時間がかかる。特に中盤以降の広大なマップは長期戦必至だ。

 そして、本作の目玉であるキャンペーンモードはプレイヤーがドイツ軍の1軍団となり、ポーランド侵攻からドイツの降伏までを戦っていくもの。ゲーム終了まで多数のマップをクリアする必要があり、さらに引き分け(規定ターン数で勝負つかず)・勝利(規定ターン数以内に勝利)・大勝利(規定ターン数より大幅に早く勝利)によってマップの分岐まであるという凝りよう。西部戦線の転機となったバトル・オブ・ブリテンや、極寒の対ソ東部戦線、灼熱のアフリカ戦線などプレイヤーの通る筋書きは一定ではない。ただ、ある特殊なルート以外で共通しているのは、プレイヤーが勝ち続けてもドイツは敗北に向かって進んでいき、最終的にベルリン防衛を経て降伏の道をたどる。本作は負けるために勝ち続けるゲームなのだ。

 このキャンペーンモードを彩るのが多種多彩な兵器の数々であり、ティーガーI、パンターといった戦車からメッサーシュミット社・フォッケウルフ社の戦闘機などのドイツ軍はもとより、連合国側のアメリカ・イギリス・ソ連の兵器も多数用意されている。さらに本作では「進化」や「改良」といったシステムでこの多様なユニットを管理している。シナリオが進み特定の年代になると新たな兵器が登場し、それまでの古いユニットは経験値がMAXになっていれば新兵器へと進化できる。また、同系統の兵器へと改良で変えていくことも可能で、ユニット=使い捨てという概念を覆している。長いキャンペーンモードを戦っていく際に、このユニットを育て進化させることが楽しみの1つにもなっているのだ。

 本作をプレイした経験のある人が口を揃えて言う「お約束」として、敵CPUの思考時間の長さと、ゲームの難易度の高さがある。これは多少の脚色はあれど事実であり、中盤以降ユニットの数が敵味方共に増えるにつれ思考時間は長くなっていき、CPUのターンが終わるまでに30分以上の時間がかかることも珍しくはなくなる。そのため、敵のターンになったら風呂や飯の時間という過ごし方が生まれ、仕事で忙しいプレイヤーなどは帰宅して自分のターンを終了させCPUのターンと同時に就寝。起きて自分のターンを消化し、CPUのターンと同時に出勤という1日2ターンでゲームを消化していた強者もいたと聞く。実際に筆者も本作のためにAVセレクターを購入し、CPUのターン時はスーファミのゲームで遊ぶという時間の使い方をしていた。当時のハードのCPUでは本作のような複雑なゲームは時間がかかるのは仕方がなかったのだが、同時にCDやDVDといった回転体が使用されていなかったため、ハードの電源を入れっぱなしでも壊れることは少なかったのだ。

 難易度の高さも本当の話で、先述のように本作はプレイヤーが勝利しても形勢は不利になっていくゲームのため、後半のマップになるほど難易度は加速度的に上がっていく。さらに本作には索敵・天候といったルールもあり、デフォルトではこれらルールが採用されているため、なおさら難易度が上がっている。特に天候ルールは運次第であり、雨が続くと地面がぬかるみ陸上部隊の動きが制限され航空機は地上への攻撃が出来なくなってしまう。そもそも歴史上ではドイツ軍が敗北した戦いが再現されていることもあり、広大な領土で進撃を阻むソ連軍や物量で圧倒するアメリカ軍といった難敵が、プレイヤーの前に立ちはだかるのである。

 これに対抗するために一部のプレイヤーは自分のターンでは天候と索敵をオフにし、CPUにだけ足かせを与えたり、自分に有利な結果になるまでセーブ&ロードを繰り返したりしたのだが、筆者はこれを否定する気は毛頭無い。難しいからといってゲームを投げるよりは、あの手この手でプレイを続行するほうがゲームに対する愛情があると思うのは筆者の間違いだろうか。そもそも本作はオンラインゲームなどと異なり1人で完結するゲームで、どれだけインチキをしても他人に迷惑をかけることはない。マゾプレイをするのも俺つええええーと喜ぶのも個人の勝手。どうせ最後は敗北というエンディングをむかえるのである。

 本作がシリーズ化されたと先に述べたが、その頂点と言えるのが『アドバンスド大戦略2001』で、これは本当にマニア以外はついていけないゲームである。索敵・天候に加え昼夜やユニットの向きといった概念が加わっており、パラメーターやルールの細かさに素人は拒否反応を起こすこと間違いない。筆者はこの『2001』に現在3回目の挑戦中であり、それでこの元祖の記事を投稿するに至ったのだ。過去には2004年にIFの西側ルート、2009年にイタリア戦線のデータが残っている。こういった時間がかかるゲームは仕事の都合上どうしても長期中断を余儀なくされ、それをきっかけに挫折してしまうのだが、今回は気を長く持って最後まで続けたいと思っている。読者の方々も陰ながら応援していただければ幸いである。

(須藤浩章)

DATA
発売日…1991年
メーカー…セガ
ハード…メガドライブ
ジャンル…シミュレーション

(C)SYSTEM SOFT CORP.198820SEIKI
(C)SEGA1991

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