この異常事態に終止符を打ったのが和田だ。昨季、カブスと契約した和田は7月途中までマイナーで投げたあとメジャーに昇格し、大半の試合で好投を見せた。
気の毒なのはチーム状態が悪いため、味方打線の貧打、内野陣の拙守、リリーフ陣の炎上などに足を引っ張られ、13試合の登板で自責点2以内に抑えた試合が10試合もあったのに四つしか勝ち星が付かなかったことだ(4敗)。
しかし、球団がオフに大胆な補強を敢行したことで状況は一変。大きなプラス要素がいくつも生まれた。和田にとって特に大きな追い風になるのは次の3点だ。
(1)「打線の得点力が大幅にアップ」
昨季、カブスは得点力不足が深刻で、和田が投げるときランサポート(9イニングあたりの得点援護)はリーグ・ワーストレベルの2.92だった。
こうした得点力不足を解消するため球団はオフに大掛かりな補強を行ったほか、ブライアント、ソレルら並外れたパワーを秘めた若手をレギュラーに抜擢。それにより得点力はワーストレベルから平均レベルまでアップし、好投すれば高い確率で勝ち星が付くようになった。
(2)「投手起用のツボを心得た監督」
今季カブスの監督に就任したジョー・マドンはメジャーきっての知将で、データをフルに活用することで知られる。和田に関しても、相手打線が1巡目の時は被打率2割0分4厘、2巡目の時も2割5分5厘に抑えているのに、3巡目になると被打率が3割6分0厘に急上昇することや、6回まではよく抑えるのに、7回になると投球が浮いて一発を食う頻度が急に高くなることなどを頭にインプットしている。その結果、和田は好投していても早めに交代を告げられることが多くなっている。和田は内心面白くないだろうが、結果的にこうした早い交代は、防御率をよくする結果につながる。
今季、2点台の防御率を出せれば、シーズン終了後、2年2000万ドル(24億円)レベルの契約も夢ではないだろう。
(3)「リードのツボを心得た2人の捕手」
好調時、和田は速球と変化球を効果的に組み合わせて打者の目線を狂わせながらハイペースで三振を奪う。それにはリードのツボを心得た女房役が必要になる。昨季は第2捕手のベイカーがそのタイプで相性が良くバッテリー防御率は2.28だった。しかし正捕手だったウェリントン・カスティーヨは緻密なリードができないタイプで相性が悪く、バッテリー防御率は3.70だった。
今季はこの2人が去り、正捕手がミゲール・モンテーロ、第2捕手がデービッド・ロスという布陣になった。この2人はリードの上手さに定評のあるベテランなので、和田には好都合だ。
和田は先発の5番手なので、ロスと組むケースが多くなるだろう。この捕手は「落ちる系の変化球」を効果的に使うことに長けており、一昨年はレッドソックスで上原浩治の女房役として多大な貢献をした。カブスでも和田にとって頼りがいのある参謀になるだろう。
今季、和田に一番期待したいのはプレーオフのマウンドに立って好投し、カブスにとって105年ぶりとなるワールドシリーズ制覇に貢献することだ。
カブスが所属するナ・リーグ中地区は序盤カージナルスが驚異的なペースで勝ち星を積み重ね独走態勢に入りそうな雲行きだったが、大エースのウェインライトがアキレス腱断裂の大けがを負い勢いが止まった。差は4ゲームに縮まっているので追いつくのは時間の問題だろう。
カブスはデーゲーム主義の伝統があるため現在もホームゲームの65%がデーゲームだ。夏場、シカゴは酷暑になるので、デーゲームが多いと選手は消耗が激しくなる。しかも遠隔地でナイターをやったあと翌日ホームでデーゲームという強行軍もよくあるので、選手は睡眠管理にも苦労する。
このデーゲーム主義によるマイナスが大きいこともあり、カブスは大都市の人気球団であるにもかかわらず成績が振るわず、1908年のワールドシリーズ制覇後、106年間もシリーズ制覇から遠ざかっている。
1945年のワールドシリーズで一度制覇のチャンスがあったが、ペットの山羊を連れたビリーという男が本拠地リグレーフィールドに観戦に来たところ、職員に追い返されて激怒。「カブスは永遠にここでワールドシリーズを戦うことはないだろう」と呪いをかけた。するとカブスは本当にワールドシリーズに出場できなくなったため、「山羊の呪い」は米国で最も知られた呪いの一つになった。
それだけにカブスがワールドシリーズに進出するようなことになれば、大騒ぎになるのは必至だ。和田が好投を続けてそれに多大な貢献をするような展開になれば最高なのだが。
スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。