笑い飯は初戦で上半身がサンタクロース、下半身がケンタウロスという「サンタウロス」のネタを披露した。これは昨年大反響を呼んだ「鳥人」に続く架空生物ネタである。最終決戦では小銭の神様のネタを披露した。これも笑い飯の特徴であるWボケを活かしたネタであるが、サンタウロスほどのインパクトはなかった。
一般に面白い漫才には、一つのストーリーがある。たとえば初戦で笑い飯と同点で首位になったパンクブーブーのネタは、コンビニで万引きする人を見つけて、万引きを止めさせようとするストーリーだった。観客は単発のボケと突っ込みを楽しむだけでなく、ストーリーも楽しむことができる。
これに対して、Wボケは相互に同じテーマでボケを繰り返す。このためにストーリーは進まない。次々と面白いボケを展開できれば成功だが、単調になってしまう危険がある。この点で想像力を働かせて生物の動きを表現できる架空生物ネタはWボケに適している。
今年のM-1グランプリを振り返ると、ネタの定番化という特徴が見られた。笑い飯は鳥人に続けての架空生物ネタで成功したが、むしろ他のコンビは定番化で失敗した。ハライチは昨年と同じく「ノリボケ漫才」を披露した。「ノリボケ漫才」は岩井勇気のフリに澤部佑が乗っていく形式である。岩井の言葉遊びと、澤部のオーバーアクションが魅力である。しかし、決勝戦では同じ形式の繰り返しで単調になり、得点は伸びなかった。
そして、敗者復活戦から勝ち上がった昨年王者のパンクブーブーは、佐藤哲夫が勇ましい発言をして、それに黒瀬純も反応するが、実は大したことではなかったという笑いであった。それを勢いよく畳み掛けることで大爆笑をもたらし、初戦では笑い飯と同点1位の高得点となった。初のM-1グランプリ連覇も望める勢いであった。ところが、最終決戦でも同じ構造のネタを披露した。新鮮さがなくなったために3位に甘んじた。
今回のM-1グランプリで台風の目となったコンビが、スリムクラブである。沖縄出身のこのコンビは、独特の空気を醸し出していた。真栄田賢がボケで、内間政成がツッコミとされるが、まず真栄田のボケが常識離れしている。それでいて現実に存在するかもしれない怖さもある。内間は真栄田のボケに突っ込まず、常識人的な対応をする。真栄田の常識外れの発言に心底驚いて、相手の顔を黙って見つめてしまうシーンも多かった。
本来は話芸である漫才において沈黙の間は致命的であるが、スリムクラブの間は笑いを生み出している。漫才は観客を笑わせるために行うものである。しかし、人間は笑わせようと計算された言動では逆に笑いたくなくなるものである。むしろ当人の大真面目で必死な姿こそが笑いを誘う。
最後のM-1王座は安定感から笑い飯に奪われたが、準優勝のスリムクラブの今後にも注目したい。
(林田力)