マエケンにとってメジャーに移ること、ドジャースを選択したことはどんな意味があるのだろう? メリットとデメリットを列挙して考察してみたい。
■メジャーで投げることのメリット
(1)マエケンは全投球の4割弱がスライダー。メジャーのストライクゾーンは外側にボール1個半くらい広いので、スライダーの威力が倍増する。ドジャースの先輩、斎藤隆はスライダーが右打者に対する強力な武器になり、マイナー契約で入団しながら瞬く間にクローザーに昇りつめた。
(2)マエケンは制球がいいので100球の球数制限がネックにならず、6回ないし7回まで投げ切ることができる。
■ドジャースで投げることのメリット
(1)ドジャースは多国籍の伝統があり、英語を話せない外国人選手を活用するノウハウがある。日本人投手の使い方も心得ていて、過去に在籍した3人の先発投手(野茂英雄、石井一久、黒田博樹)は全員ローテに定着して活躍した。
(2)ドジャースはチームにクレイトン・カーショウという大エースがいるため、プレッシャーのかからない先発3番手くらいで投げることができる。
(3)デーブ・ロバーツ監督は沖縄育ちで母親が日本人。大の親日家で日本人選手との付き合い方も心得ている。
(4)マエケンはフライボールピッチャーなので、俊足で守備範囲の広い名手が揃うドジャースの外野陣には大いに助けてもらえる。
(5)正捕手のグランダルは昨年から投手をリードする能力が急速に向上。特に変化球の使い方がうまくなった。バックアップ捕手のエリスは以前からリードの上手さに定評があり、マエケンはドジャースで捕手に恵まれる可能性が高い。
(6)日本人が多く住み気候もいいロスは、日本人選手には最高の住環境。
このほか、本塁打の出にくいドジャースタジアムで投げることは、フライボールピッチャーであるマエケンに有利に作用するであろうこと、賢者ハニカット投手コーチの助言を絶えず受けられることなども見逃せない。実際、同コーチは1年目の日本人投手は早く結果を出そうと力んで投げることが故障のリスクを招くと見て、マエケンにリラックスして投げることを指示、それを徹底させている。
その一方で、メジャーで投げるデメリット、ドジャースで投げるマイナス要素もいくつかある。
■メジャーで投げるデメリット
(1)日本では中6日だった登板間隔が中4日になるので、シーズンを乗り切るのが大変になり、ヒジや肩の故障リスクが増す。
(2)右打者にはスライダーが強力な武器になるが、反対にチェンジアップは精度がイマイチなので左打者に手こずる恐れがある。
(3)メジャーの打者はパワーがあるうえ、マエケンは打球がフライになりやすいタイプだ。そのためパワーヒッターの多いメジャーでは失投が本塁打になるケースが多くなる。
■ドジャース入団のマイナス面
(1)ドジャースは金満球団であるため長期契約している投手が6人いる(カーショウ、キャズミア、前田健太、柳賢振、マッカーシー、シエラ)。さらに単年契約の超高額年俸投手が1人(Bアンダーソン)、若手の成長株が3人(Aウッド、ボルシンガー、フリーアス)いるため10人で5つのイスを争う構図になり、極端な過当競争になっている。長期間ローテに踏みとどまるには常に平均以上の防御率をキープする必要がある。
(2)チームの中継ぎ陣が弱体で勝利投手の権利を持って降板しても、後続のリリーフ投手が打ち込まれて勝ち星を消されるケースが何度かあると思われる。
(3)ドジャースとの契約がマエケンに不利な内容になっているため、ハイレベルな成績を残しても、FAになって超大型契約で他球団に移ることができない。
このようにデメリットやマイナス点もいくつか存在する。ただメリットの方が多いので悪い選択ではなかったように見える。
あとは故障しないことだ。契約では長期欠場があるとその年は保証給300万ドルに開幕ロースター入りボーナス15万ドルを加えた315万ドルしかゲットできない。しかし故障せずにメジャーの先発投手の標準である32試合と200イニングをクリアすれば、表にあるように1315万ドル支給される。
マエケンの大先輩、黒田はメジャー移籍後にバットの芯を外す投球術を身につけてほぼ毎年、このレベルの数字を出していた。マエケンが自分をどう進化させて、この2つの数字をクリアしていくか注目したい。
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2016」(廣済堂出版)が発売中。