始まったばかりの2日目、平幕の妙義龍に早々と押し出されて金星を献上し、5日目にも栃煌山の肩すかしに、まるでダイビングでもするように前に落ちた。どちらも、いわゆる惜しい負けではなく惨敗だった。
金星を得ると、勝った力士は場所ごとの報奨金支給額が10円加算され、実際はそれを4000倍にした4万円のプラスとなる。日馬富士が配給した金星は、横綱昇進後、夏場所の途中(9日目現在)で早くも5個目。異例の気前の良さだ。
「相撲協会は去年も10億7000万円もの大赤字を出し、大倹約令が出ています。そんな中、日馬富士のためにこれから先、場所ごとに計20万円の出費がかさむわけですから、協会首脳が苦い顔をするのは当たり前。師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)も『協会には迷惑をかけて申し訳ない』と恐縮していました」(担当記者)
日馬富士は、新横綱として臨んだ昨年九州から、9勝、全勝、9勝と両極端な成績が続いていた。夏場所5日目は横審の本場所総見だったが、目の前で日馬富士のぶざまな姿を見せつけられ、怒りを通り越してあきれ顔。高村正彦委員(自民党副総裁)も、「横綱なんだから、もっと自分の相撲を取らないと。大関だって、9勝だったら(侮蔑をこめて)クンロク大関と言われる」と苦い顔だった。
過去の例をみても、周りの力士たちに足元を見透かされた横綱は、なかなか立ち直るのが難しい。「よし、オレも食ってやる」とみんな、かさにかかってぶつかってくるからだ。
「大乃国や若乃花(3代目)の土俵人生が暗転したのは、負け越したのがきっかけでした。こうなると、周りの力士たちのかさのかかり方がより一層強くなり、結果として引退に追い込まれてしまうのです。日馬富士も、2人に雰囲気が似てきましたね」(大相撲関係者)
この窮地、日馬富士が自ら切り開くしかない。