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経済偉人伝 早川徳次(シャープ創業者)(23)

 徳次は、この漢字を記憶した経験からも学んだ。“仕事上も、ある程度の知識や技術を積み上げていくと加速度的に(転がる雪だるまのように)膨れ上がって行く”ことに気付いた。文字を覚えたことは、新聞・雑誌が読めるようになったことだけでなく、人生に大きなプラスになった。
 芳松がようやく回復し、仕事場に復帰してきた。そんな頃、芳松に2、3日どうも元気がないことがあった。徳次が訳を尋(たず)ねてみると「5円ぽっちの金が今、都合がつかねえ。いろいろ工面しているができねぇんだ。本当にだらしねぇ」。投げ出すような口調で言う。さし当たって必要な地金の仕入金だということが徳次にはすぐにわかった。
 外出したついでに近くの農工銀行(みずほ銀行の前身の一つ)に立ち寄り、僅(わず)かずつ貯めた9円の貯金の中から5円を引き出した。いつの頃からか、荷物の底にではなく、銀行に給金を預け入れるようになっていた。

 下ろした5円は芳松に渡すつもりだった。ただ、どうやったら芳松に受け取ってもらえるか、徳次は悩んだ。出すぎた真似をするな、と怒られるかも知れないと心配だったのだ。渡す機会を見つけられないままに夜になった。寝る前になって決心し、5円を紙にくるむと芳松の寝床の下に入れた。
 “これは今までにいただいた私の貯金です。私は今要りませんからどうかお使いください。徳次”と紙に走り書きして、中に添えておいた。
 次の朝、徳次はおかみさんに「徳どん、ちょっと来ておくれ」と言われた。恐る恐る芳松の部屋に行くと、芳松は「徳や、ありがたい、この通りだ」と徳次の手をとって拝むようにする。徳次は何も言えないでいた。芳松は「せっかくお前が楽しみに貯めた金にまで手をつけることになって、本当にすまねえ。勘弁してくんな…。夜昼なしに働かして、その上まだこんな心配をかけて…。金はありがたく使わせてもらうぜ。お前の心持ちは一生忘れねえ」と、また徳次の手を持ち上げるのだった。おかみさんは傍で涙を拭っていた。

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