「一般的に精神科=精神病=重症というイメージが強いため、軽症の患者さんはなかなか気軽に精神科を受診できませんでした。一方で、内科や心療内科へ精神科疾患の患者さんの多くが受診する傾向にありました。このため、一部には安易にうつ病薬を処方してしまい、時に混乱を生ずることもあったのです」
うつ学会の示した指針は、そんな事情も考慮してのことだというのだ。
「2012年の医療計画においては、『精神疾患』を癌・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病に加え『5疾病』とし、重点的な医療・政策が講じられることになりました。しかしその反面、うつ病の診断や治療において、疑問や誤解を認められるようにもなりました。その理由は、精神医学・医療が科学として発展途上であり、各医師の知識や経験にゆだねられていることが挙げられます。『うつ』と一口に言っても“うつ状態”を呈する疾患はうつ病、気分変調症(抑うつ神経症)、双極性障害(躁うつ病)、適応障害といくつもある。その他、統合失調症の前駆症状や発達障害の二次症状(重ね着症候群)などを加えると、種類や組み合わせはさらに増えるのです」(茅野院長)
数ある「うつ状態」がどのような経過を経て現在に至っているかを、的確に診断しなければならないというのである。
「軽症うつ病はじめ、全てのうつ病の治療の前提に、患者の背景、病態理解に努め、支持的精神療法と心理教育を行います。軽症の場合、抗うつ薬の使用は必要に応じて行う。しかし、気分変調症(抑うつ神経症)や適応障害の場合は、カウンセリングや環境調整などをして、本人の考え方や周囲の関わり方を変えていく必要もあるのです」(同)
双極性障害の場合は、抗うつ薬よりも気分安定薬を中心に服用し、うつを治すより、むしろ軽躁状態を抑え、“低目安定”こそが“無難な人生”であることに気づくことが望まれるという。
「うつ病(軽症・中等症)の治療アルゴリズムはまず、『SSRI/SNRI』という抗うつ薬を少量から開始し、一定の改善を認めるまで増量する。また、必要に応じて少量のベンゾジアゼピン(抗不安薬・睡眠薬)を併用します。4〜8週を経過しても無効な場合や十分に有効といえない場合は、他の抗うつ薬へ変更したり、リチウムを追加して効果増強を試みたりする。ただし、むやみに抗うつ薬を増量することはせず、休養や環境調整を前提とすることが大事なのです。また、副作用に注意しながら必要量まで増量しますが、多剤・大量処方とならないように注意することも大事。注意すべきなのは、『精神療法』や『薬物療法』など、一つの治療法に偏り過ぎないこと。どれも一長一短があるので、それぞれの長所を上手に生かした治療を受けられることが望まれるのです」(同)
患者側も、ある程度の知識を持って治療に臨むべきだろう。