90年代にブームになったノストラダムス然り、様々な予言者とその予言が注目を集めてきた。近年では、ブルガリアの盲目の老婆ババ・ヴァンガの予言などがそうだ。
そんな予言者ブームは過去にも存在していた。有名なものが、イギリスの予言者マザー・シプトンだ。本名はアーシュラ・サウセイルといい、15世紀後半から16世紀にかけて活躍し、多くの歴史的事件を予言し的中させたと言われている。
現在も伝わっている彼女の予言の内容は以下のようなものだ。
「馬のない車両が行き、事故が世界を悲嘆で満たすだろう」「空中に居るのを目撃されるだろう、白、黒、緑の服を着た人々が」「黄金が発見されるだろう、まだ見ぬ土地で」
いかがだろうか。まるで現代の社会やテクノロジーを見聞きし、戦争の様子を克明に示しているような内容ではないか。そして、この予言は「世界は終焉を迎えるだろう、1881年に」という言葉で締めくくられる。だが、実際には世界は終焉を迎えてはいない。終末予言は外れるのが常識と言われているが、今回も同様だったのだろうか。
実は、このマザー・シプトンの予言は造られたものであったとする事実が出てきている。彼女の伝記が初めて世に出たのは17世紀、リチャード・ヘッドという人物の著作からであった。この時点で既に200年はブランクが存在している。実は彼はマザー・シプトンの予言という事にして、当時の政治や社会を風刺した内容を書いていたのだ。そして、19世紀に再びヘッドの著作が紹介され、マザー・シプトンの予言が世に出たときに、あたかも未来の技術を15世紀の人物が知っていたかのように予言の内容が書き足されたというのだ。
現在でも、予言者のそれらしい言葉を勝手に解釈し、人々はその結果に振り回されてしまう。予言とは、常にその時代の人によって「造られていく」ものなのかもしれない。
文:和田大輔 取材:山口敏太郎事務所