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プロフェッショナル巧の格言 延藤直紀(CCP社長) 「ミケランジェロを超えたい!」フィギュア職人の執念(3)

 ヒーローたちの造形や材質にもこだわるため、延藤が生み出すフィギュアは大量生産できるものではない。会社の経営も左団扇というわけではない。こだわり過ぎるが故に、不良在庫を抱えてしまうこともある。そんな厳しい状況にあっても、フィギュアへの情熱だけが彼を突き動かしている。
 「彫刻といえばミケランジェロが有名です。当時の最新の技術を使って、最高の彫刻を造りあげました。日本でも、さまざまな絵師や芸術家がその時々の最高の技術を使って、風景や屏風を描いてきた。その流れでアートがあると思います。だから我々も現在の最新の技術で最高のものを造って、ミケランジェロを超えたいんです。キャラクターを使って収益を得ていますが、キン肉マンを造るなら、ボディービルダーの体を忠実にトレースして、筋肉から血管、皮膚の質感からシミまでも丁寧に再現する。そこまで細かいことはミケランジェロもできなかった。我々のようにここまで精巧にフィギュアを造っている人はいないと思います。後世に残るものを造っていきたいんです」

 実際に、ボディービル選手権優勝者の体を忠実に再現したというキン肉マンのフィギュアを見せてもらう。驚いたのは、腕や足、さらには指まで細部を見れば見るほど、まるで人間の体を再現したかのように造られていることだった。フィギュアというよりは、人体の模型である。ここまで細かいフィギュアを目にするのはもちろん初めてだった。まさしく延藤の執念が乗り移ったような作品だった。
 ミケランジェロによって彫られたダビデ像は旧約聖書の世界を表現したものである。果たして、延藤はキン肉マンという像の中にどのような精神世界を描こうとしているのだろうか。現代の日本で描くべき精神世界はあるのか。もしそれがなければ、単なるコピーにすぎなくなってしまう。

 延藤は私の質問に、表情を変えることなく相変わらず訥々と語りはじめた。
 「漫画イコール親から読むな、馬鹿になると言われながら育ったのが自分たちの世代だったと思うんです。それが今や時代は変わって、料理などの専門的な漫画を読んだことによって、シェフになったという人も少なくありません。政府も動き始めて、日本の漫画を世界に発信しようという動きも出てきました。実際にパリで行われたジャパンエクスポでは18万人が足を運んだそうです。そうした事実から言えるのは、漫画は生き方の指針となる現代のバイブルではないかということです。勧善懲悪の世界であり、漫画から学ぶことも多い。漫画に登場するヒーローたちを立体化させるということは、日本人の精神世界を描いていると思っています」

 彼の言葉を聞いて、なるほどなと思った。キン肉マンやウルトラマンは、延藤にとって単なる漫画ではなく、一つの生き様であり、己の人生を支えてくれた“神”でもあるのだ。
 彼が造り出すフィギュアには、間違いなく職人の魂が込められている。

えんどう・なおき
1968年北海道出身。前職はキックボクサー。誰もが一度は目にした漫画のキャラクターの製作、販売で、業界では知らぬ人のないメーカーにまで発展。CCP(キャラクター・コンテンツ・プロダクション)代表。

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