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マリナーズ岩隈を「エース」に押し上げた“瀬戸際捕手”

 メジャー2年目の岩隈久志投手(32=シアトルマリナーズ)が絶好調である。日本の一部メディアでも紹介されたが、地元紙『シアトル・タイムズ』でも「クマとキングが先発スタッフを牽引している。どっちがエースなんだ?」(電子版)と称賛しているという。キングとは大リーグ投手史上最高額となる『7年総額1億7500万ドル』(約163億円)の契約を結んだフェリックス・ヘルナンデスのこと。「キング」と称される大エースと肩を並べただけでもスゴイが、5月2日時点での岩隈の成績は、防御率1.67(リーグ3位)、QS5回、WHIP0・69(リーグ1位)。「中継ぎか、ローテーションの谷間役」とされていた昨季前半とは大違いである。

 一体、何が岩隈を『エース』に押し上げたのか−−。相性の良いパートナーが出現したようである。
 今季から、ケリー・ショパック捕手がマリナーズに加入した。
 同捕手は今季33歳を迎える。年齢からも分かる通り、ベテランの域に達している。キャリア・ハイはインディアンズ在籍の08年で112試合に出場したが、昨季はシーズン途中、レッドソックスからニューヨークメッツに移籍させられたように、出場機会にも恵まれていない。
 「ショパックのマリナーズ入りが決まったのは2月7日でした(現地時間)。キャンプ・イン直前に契約が成立したということは、レギュラーを予定して獲得した捕手ではありません」(前出・同)

 マ軍の正捕手は、モンテーロ(23)だ。また、昨年7月のMLBドラフトで、大学球界ナンバー1捕手のマイク・ズニーノを1位指名している。「今季中にメジャーデビューする」とも噂されており、こうした情報からも分かる通り、ショパックはあくまでも“保険”。モンテーロの怪我か、ズニーノの昇格が遅れた場合に備えて獲った3番手以降の捕手にすぎなかった。

 しかし、彼にはこんな経歴もあった。米球宴でア・リーグの先発も務めたクリフ・リー(フィリーズ)の『パーソナル・キャッチャー』と言われていた時期もあった。奇しくも、ショパックがシーズン最多出場を果たした08年、クリフ・リーはサイ・ヤング賞とカムバック賞にも受賞しており、当時は「ショパックがリーの好投を演出した」なる評価もされていた。
 「クリフ・リーは『フライアウト・ピッチャー』(速球で飛球アウトを稼ぐタイプ)ですが、変化球の持ち球も多い方です。08年はシンカー、スライダーなどで『ゴロ・アウト』を稼いでいました。以前のリーは失投をホームランされることが多かったんですが、ショパックのリードによって、変化球を投げる割合が増え、打ち損じを誘う投球もするようになりました」(前出・同)
 08年のクリフ・リーをそう評する声もあるようだ。また、ショパックは以後、「変化球投手の配球に長けた捕手」とも呼ばれるようになった。

 岩隈の話に戻そう。現地関係者によれば、このショパックが岩隈を捕まえ、対話するシーンもよく見掛けるという。岩隈は「変化球投手」と言っていい。もっと言えば、コントロールミスの少ないタイプでもある。つまり、捕手からすれば、配球を組み立てやすい投手でもあり、ショパック自身も「相性の良いパートナー」に巡り逢えたと思っているのではないだろうか。
 近年、サイ・ヤング賞は勝利数よりも防御率やWHIPが重要視される傾向にあるという。同タイトルにもっとも近い日本人投手はダルビッシュではなく、変化球投手のパーソナル・キャッチャーを得た岩隈かもしれない。

※文中におけるMLB関連のカタカナ表記は『メジャーリーグ選手名鑑2013年版』(廣済堂出版)を参考にいたしました。

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