青木は'11年のシーズン終了後メジャー挑戦を宣言した。その頃は、松井稼頭央、福留孝介、西岡剛らが大型契約で入団しながら期待外れに終わったため、日本人野手に対する評価は暴落していた。そのため、青木にはブリュワーズから声がかかったものの、テスト生のように能力テストを課せられた上での入団で、年俸はヤクルト時代の半分以下になった。しかも、チーム内の位置づけは「5人目の外野手」。オープン戦で結果を出さなければ3Aに落とされる可能性が高かった。
そんな崖っぷちの状況から這い上がり、青木は5年半の間に716本も安打を記録した。
それには、特異な能力が二つあったからだ。
一つは、左打者でいながら、右投手より左投手から高確率でヒットを打てることだ。通算成績を見ると青木の対右投手打率は2割7分6厘であるのに対し、対左は3割0分7厘という目を見張る数字となっている。
メジャーでは、マッチアップが重視されるため、相手の先発が右投手の場合は打線に左打者をずらりと並べ、左投手の場合は右打者だらけの打線を組むことが多い。そのため一つのポジションに右打者と左打者を1人ずつ用意して半々に使うことが日常的に行われている。
しかし、青木は「右打者より左投手に強い左打者」という特異な存在であるため、マッチアップに関係なく、フルタイムの1番打者として起用された。メジャーでの最初の3年間、連続して140安打以上を記録することができたのは、この能力があったからだ。
メジャーでの安打量産を可能にしたもう一つの特異な能力は、内野安打を量産する能力だ。
青木はゴロを打った後、一塁ベースまで4.0秒前後で到達できるため、内野ゴロの2割程度が内野安打になる。そのため、メジャーに移ってからは広角に強いゴロを打つことを心掛け、1年目は内野安打を34本、2年目は45本記録した。これはどちらもその年のメジャー最多記録で、これが安打の生産ペースをトップレベルに押し上げた。
このように青木は「左投手殺し」と「内野安打量産能力」をフル活用して日米2000本安打を達成した。
青木が所属するアストロズは今季開幕から好調で、ア・リーグ西地区の首位を独走中だ。地区優勝はほぼ確実で、気の早い日本の青木ファンの中には、プレーオフでの活躍を期待する声も出始めている。しかし、それが実現する可能性は低い。
なぜならアストロズの「将来の主砲」という呼び声の高いデレク・フィッシャーが3Aで本塁打を量産しており、6月14日、メジャーに引き上げられたからだ。フィッシャーは外野手であるため、彼をメジャーに定着させるには、現在5人いる外野手のうち1人を外さないといけなくなる。
5人のうちセンターのスプリンガーは看板選手、ライトのレディックは2020年まで契約がある大物、レフトとDHを兼ねるベルトランは40歳だが輝かしい球歴を誇る大選手だ。この3人は初めから地位を保証されている。
外すとすれば、準レギュラーの青木かマリズニックということになるが、マリズニックは守備力が際立って高いうえ、今季は長打もコンスタントに出ている。一方の青木は、打率、出塁率とも、期待値を下回っているうえ、守備力もイマイチだ。
このままだと、おそらく青木が外されることになるだろう。そうなった場合、考えられるシナリオは次の三つだ。
(1)3A降格
アストロズの3Aでプレーしながら、外野陣に故障者が出て呼び戻されるのを待つ。ポストシーズンのメンバーに選ばれる可能性は1、2割程度だ。
(2)トレード
アストロズが青木を欲しがる球団にトレードし、見返りとして中程度のマイナーのホープを獲得する。
現在地区優勝争いをしているチームで青木を欲しがる可能性があるのは、古巣のブリュワーズだ。ブ軍は今季、ずっと1番打者に適材を欠く状態が続いているので、トレード話が浮上する可能性は十分にある。
(3)解雇
来年36歳になる青木は年齢が高いため、アストロズを解雇され、次に契約してくれる球団が見つからず、そのままシーズンが終わってしまうというシナリオも考えられる。
どのシナリオになるにしろ、来季は日本でプレーすることになるだろう。メジャーリーグは30代半ばになったプレーヤーにきわめて冷淡な体質があるので、選択肢は限られるのだ。
スポーツジャーナリスト・友成那智(ともなり・なち)
今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2017」(廣済堂出版)が発売中。