「富士山は、ゴミ放置や車の排気ガスに加え、登山客のための山の掘削など、環境問題が山積みでしたが、何ひとつ解決されていないのです。富士山が世界遺産に値するかは、ユネスコの付属機関であるイコモス(国際記念物遺跡会議)というNGO団体が審査するのですが、2016年の2月1日までに『保全状態報告書』、つまり環境対策の提出を義務付けられている。もし提出を怠ったり、改善が行われていなければ登録抹消になる可能性さえあるのです」(地元記者)
'09年には、ドイツのドレスデン・エルベ渓谷が、景観を損ねる橋を架けたことを理由に登録を抹消された例もある。
「富士山では世界遺産登録により登山者が激増し、宿泊施設やトイレの不足など、オーバーユースの問題が深刻化しています。昨夏も山荘付近に弁当の残骸やペットボトルが散乱していた。登山道に投げ捨てる人もいて、掃除するのが大変だったようです」(同)
しかも昨年から本格的に導入された入山料(富士山保全協力金=任意で1000円)の徴収率は、山梨県側で56%、静岡側で41%。当初の想定を大きく下回り、関係者を愕然とさせている。
ジャーナリストの窪田順生氏が言う。
「日本人は世界遺産を使いこなせていない。観光に対する意識を変えないと、本当に登録抹消になってしまう。登録すれば地元経済の活性化など期待もあるのでしょうが、そもそも欧米人などは“日本人は自然や文化を大切にしない”と冷やかかな目で見ています。富士山も入山料をもっと高く設定し、それをトイレなどの施設のメンテナンスに使うのは当然の話です。それを怠って、ボランティアの支援を仰ごうなどという考えはもってのほかです」
そんな中、3月には静岡・山梨の両県が「富士山とその構成資産を適正に利用しながら保存管理する」を基本理念とする条例を制定。入山料制度への登山者の協力要請を明文化するなど、「保全状態報告書」の提出期限までにイコモスにアピールしようと躍起だ。
今年の夏山登山シーズンが環境悪化へのダメ押しとならなければいいが…。