昨年7月に社長を解任され、今年の1月末に復帰した久美子社長は株主総会を経て父親である勝久前会長の影響力を排除、古いビジネスモデルの典型で「店に入りづらい」とされた会員制システムに風穴を開け、父親時代からの会社ロゴも刷新したばかりか、大セールを機に高額商品がメーンだった商品構成を中価格帯にシフトする戦略を打ち出した。記者会見では「あくまでもお店が生まれ変わるというのが趣旨です」と言葉を濁したが、その真意はドロ沼バトルを演じてきた父親への“永別宣言”に他ならない。
その勝久前会長は今年7月、東京・高輪に新会社『匠大塚』を設立した。家具職人として再出発する意向らしい。その点、大塚家具から一歩距離を置いた格好だが、会社設立に際し保有する大塚家具株の4.9%を年末までに三菱UFJモルガン・スタンレー証券に売却する契約を結んでいる。
とはいえ、売却後も13.14%を保有する筆頭株主であることには変わりがなく、3月総会で骨肉の委任状争奪戦を演じた久美子社長には“目障りな株主”でしかない。
勝久氏は2008年に資産管理会社『ききょう企画』の社債を15億円で引き受けたが、期限の'13年4月を過ぎても償還されないとして久美子氏サイドを提訴。さらに、ききょう企画が保有する大塚家具株189万株(発行済み株式の9.75%)の名義を久美子氏に変更したのをめぐって勝久氏が返還訴訟を起こすなど“お家騒動”は今や裁判所を巻き込むドロドロの闘争劇に発展している。だから今回の“父親・勝久カラー一掃セール”には久美子社長のクールな計算がある、と市場関係者は指摘する。
鍵を握るのは11月6日に発表した1〜9月期の単独決算である。最終損益は7100万円の赤字(前年同期は4億8300万円の黒字)だった。4月から5月にかけて実施した、いわゆる世間を騒がせたことに対する「おわびセール」は好調だったが、7月と8月は前年比5%増にとどまり、9月には14%減と、一転して苦戦を強いられたことが響いた。その間の事情を市場関係者が解説する。
「もともと夏場に家具を買う人は限られているし、今年はセールの反動もあった。第一、去年4月の消費税増税以来、高級家具の販売にブレーキがかかり、低価格が魅力のニトリやIKEAに市場を奪われているのが実情。そこで久美子社長はどうすれば12月の本決算で好調をアピールし、父親との違いを見せつけることができるかを考えたようです。その回答が売り尽くしに名を借りた父親カラーの一掃セールだったのです」
だが、繰り返しになるが1〜9月期の同社は赤字だった。むしろ5億円近い黒字を確保した昨年とは大違いである。それが今回のセールで“父親超え”を実現する根拠は何なのか。
タネを明かすと、同社は昨年、保有する有価証券を売却し、14億円の売却益を得た。このかさ上げがなければ、今年とは比較にならない大赤字だったのだ。これを受け、勝久氏が社長だった昨年12月期は4億7300万円の最終黒字を確保したとはいえ、現実には10億円もの赤字だった計算。実際、本業のもうけを示す営業利益は4億200万円の赤字だった。
これに対し、今年12月期の同社は9000万円の最終利益を見込んでいる。むろん、正味の利益で、株や不動産売却益などの“バブル効果”は含まれていない。そこへ売り尽くしセールに伴う上乗せ効果が期待できるのだ。久美子社長が「実績を見せつけることで、あの父親をギャフンと言わせられる」とホクソ笑んだとしても無理はない。
「勝久さんは自分の会社を設立したとはいえ、依然として大塚家具の筆頭株主ですし、老いの一徹で久美子社長への敵対心をメラメラさせている。いくら実の父娘とはいえ、これでは久美子社長もいつ寝首をかかれるか分からないと危機感を抱かないわけがない。彼女にとって究極の保身策は、父親が口出しできないほど実績を見せつけること。それが永別宣言の真意です」(大塚家具関係者)
売り尽くし後、大塚家具は全店舗をリニューアルオープンする。「いったん死んでよみがえる」。久美子社長は本気モードに入ったようだ。