75歳の宮内氏に対して金光氏は64歳、遠藤氏は62歳だから、“若返り”との評価もあるが、そう単純な話ではない。例えば、今回、嘉納氏は系列局の関西テレビ会長に就任するものの、関テレはグループ会社ではない。フジMHDにおいてはお役御免だ。トップ辞任後もフジMHDのグループ経営陣に残り続けているのは日枝久氏だけである。相談役とはいえ、両社のトップ人事は、今も日枝氏が動かしているといわれている。
フジテレビの遠藤新社長は、芥川賞作家・遠藤周作の長男として就任前から注目を浴びていた。81年入社だが、このころから有名人子弟の入社が増えたことから、コネ入社とのウワサもある。若いころは編成部や制作部にもいたが、“テレビマン”としての実績となると、あまり強烈な印象は残していない。
遠藤氏が頭角を表したのは、広報に移ってからだ。大作家の息子というネームバリューは社外でもいかんなく発揮され、日枝批判の火消し走ってきた。記者会見で好きな作家を聞かれ、「著者は忘れちゃったんですが『沈黙』という小説です」と、父親の代表作を挙げるなど、明るくユーモラスな人柄として知られる。
注目すべきは、15年に「特区事業室」の担当に就いたことだ。これは“お台場カジノ構想”のことである。フジサンケイグループはカジノをお台場に誘致しようと熱心に働きかけてきたが、その先頭に立って旗振り役を務めていたのが遠藤氏である。業績が悪化したグループを立て直すために、日枝氏の下で汗をかいていた。
さて、今回の総会。結果から言えば、株主からの質問は8つで打ち切りとなった。2019年3月期のグループ連結の売上高は6692億3000万円で前期比3.5%の増収、本業のもうけけを示す営業利益も347億900万円で37.4%の増収だった。ただ、その内容を見ると、都市開発・観光事業が好調だったためだ。メディア・コンテンツ事業は7期ぶりに増益となったものの、まだまだ本格回復とはいいがたい。
決算・事業報告の後、株主からの質疑応答と移った。ある男性株主は「クールジャパン機構」への5億円投資を追及した。これは、日本の文化を海外に紹介し、マンガ・アニメ、食、ファッションなどの輸出を支援しようと、官民ファンドの産業革新機構が投資した事業なのだが、成果ゼロのまま次々に打ち切られている。税金のムダ遣いといわれており、テレビ局ではフジテレビだけが投資しているというのだ。会社側は「今の段階ではリターンが良くない」と株主の指摘を認めた。
会場の株主から質問が8つ出たところで、議長によって質疑は強制的に打ち切り。日枝氏が議長だったころ、その強引な議事運営が批判を浴びたものだが、それに勝るとも劣らないほど強権的な嘉納議長だった。1時間45分は近年稀にみるほど短い総会だった。