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大地震におけるデマその2「不安の心理学」

 今回の震災で、数多くのデマ情報が出回っている。そこでどのような方が、デマ情報に振り回されやすいかを、過去の例から述べてみよう。

 1938年10月30日、アメリカCBSラジオで放送された『宇宙戦争』というラジオドラマがあった。
 原作はH・G・ウェルズ。プロデューサーは、かの名優オーソン・ウェルズ。ドラマの内容は、火星人が地球に攻めて来て、地球の軍隊が火星人と戦うというSFである。
 このラジオドラマは報道ニュースや、ドキュメンタリーの手法を取り入れた当時でもめずらしい「フェイク・ドキュメント」の方式を取って制作されたものだったこともあり、ラジオを聴いていた人々は
 「本当に火星人が地球に攻撃をしかけてきた!」
 と勘違いし、全米各地でパニックを起こしてしまったという事件である。
 この事件に対して、アメリカの心理学者キャントリルは、
 「パニックになってしまった人々は、教育レベルが低い人が多かった」
 と、指摘している。
 教育レベルの高い人々は、【火星人襲来】という大ニュースならば、CBSラジオ一局だけではなく、他のラジオ局も報道しているはずだと判断し、他局のラジオニュースを聴いたり、被害を受けたとされる地域の人に電話をして裏を取ることで、このラジオドラマが作り物であることを見破り、パニックになることはなかったという。

 この例から、わたしたちが何を学べるかというと、うかつにデマに流されるのではなく、まず情報のソース(出どころ)を調べる必要があるということだ。
 ネットなどのデマでも、どこかの誰かが「たまたまつぶやいた言葉」だったり「冗談」が発達してきて伝聞、流言と化してしまうことがある。
 特に震災時のような非常時においては、不安も手伝い一つの情報が誇張され、巨大な恐怖デマになってしまうことは、決してめずらしいことではない。
 第二次大戦敗戦直前、あるいは敗戦直後に、日本には「アメリカ人がやってきて女はみな強姦され、男は去勢される」というデマが流れていたのは、その例のひとつである。
 いま、過去にデマに流されてしまった人々を笑うことはできない。
 人々が不安になったとき、デマのようなニセ情報に流されてしまうのは、ある程度あり得ることなのだ。

 今回の東北関東大震災において、被災地ではない場所で、米やパン、インスタント麺といった食料や、トイレットペーパーといった生活物資の買い占めに走る人がたくさんいた。これもまた不安な心理がやらせたことである。
 実は、今回の地震において被災地以外の場所、例えば首都圏などでは、食料やトイレットペーパーといった生活物資が、直後になくなるほど困窮していたわけではない。
 ただ、多くの人々が「いまのうちに買っておかないと…」という不安な心理から、買い占めという行動に出てしまったのだ。
 これも過去にいくつかの例がある。1973年に起きた石油ショックのときに日本全国でトイレットペーパーが買い占めによってなくなるという事件がおきた。
 原因は、大阪のスーパーマーケットが、安売りのため「紙がなくなる!」とトイレットペーパー特売の広告を出したところ、2〜300人の人が並んでトイレットペーパーが、そのスーパーでは売り切れてしまった。
 そのことを新聞が書いたため、トイレットペーパーの買い占めが全国的に起きてしまい、日本中がパニックになってしまったという事件だ。
 また、1993年には「平成コメ騒動」があり、米がなくなると不安に思った人々が米を買い占めたため、市場から米が消えてしまうという事件も起きている。

 災害時に不安になるのは仕方がない。
 また、そのためデマが起こるのも、ある程度仕方がないことであるかもしれない。
 しかし、不安は不安を増し、やがて不安は怒りに変わってくる。
 そのため、デマを流した人と、デマで不安になった人との間で不和が生じるかもしれない。
 そうならないためにも、少し不安が落ち着いたら、デマを流してしまった人や、デマに乗ってしまい買い占めなどをした人を許すことも必要だろう。
 また、自らデマを広めてしまった人や、買い占めをしてしまった人は、開き直るのではなく、素直に反省し、次からはそのようなことがないようにしてもらいたいものだ。

(巨椋修(おぐらおさむ) 山口敏太郎事務所)

参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou/

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