食糧危機を回避するために導入された人口抑制策だが、近年になり若年労働力の不足を招き、賃金の高騰を通じて中国の輸出競争力を失わせるというマイナス面が顕在化。高齢化が進み社会保障負担の増加が大きな懸念材料になってきた。
今年8月に国連が発表した中国の将来人口予測によると、15年現在の中国の高齢化比率(65歳以上の比率)は9.6%だが、'60年には32.9%と、3人に1人が高齢者となる。これは、現在の日本の高齢者比率26.8%を上回る水準だ。
日本の高齢化比率は、1990年は125だった。そこでバブルが崩壊し、それ以降日本経済は長期低迷が続いている。つまり、人口構造の面からいうと、いまの中国はバブル崩壊前の日本の立ち位置にあるのだ。
そこで高齢化を食い止めるために中国は出生数の確保に出たわけだが、教育費が高騰して生活の余裕がなくなった中国の一般家庭が本当に子どもの数を増やすのかどうかについて、大きな疑問の声が出ている。ただ、中国メディアは今回の一人っ子政策廃止で、出生数が年間300万人から800万人増えると報じている。
仮に中国政府の思惑どおりに出生数が増えれば、高齢化の問題は緩和される。もし出生数が年間800万人増えたとすると、'60年の高齢化比率は32.9%から25.7%へと大幅に減少する。しかし、出生数の増加は、新たな問題を引き起こす。
現役世代が扶養しなければならないのは、高齢者だけではない。子供の世代も扶養しなければならないのだ。人口学では、高齢人口と年少人口を合わせたものを従属人口と呼ぶが、出生数の増加は子供が働き始めるまで従属人口の比率を上げてしまうのだ。しかも、それは早く訪れる。
800万人の出生増が今すぐ起きたとすると、'30年の従属人口比率は、国連人口予測の32.0%から37.2%に達してしまうのだ。これは、日本の'12年並みの水準に相当する。つまり、仮に一人っ子政策が完全に効果を発揮すると、中国は現代の日本並みの従属人口負担にさらされることになるのだ。
中国は、一人っ子政策廃止がうまく行っても地獄、うまく行かなくても地獄の板挟みにある。そうした高齢社会を乗り切る唯一の方法は、高付加価値品の生産に特化して、少ない労働人口比率でも社会が回るようにすることだが、問題は高付加価値品の市場は大きくないということだ。
例えば、TPPへの参加で、日本のコメも国際競争にさらされるようになり、日本の農家が生き残る道は、高単価で売れる銘柄米に特化することだと言われている。現に日本の農家はそうした方向へ舵を切っているが、銘柄米のシェアは1割しかない。
あらゆる商品で同じことが言える。中国の人口は日本の10倍で、とても高付加価値化では食えない。中国はどこに行くのか。