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過去最低シェアー キリンビール“公家集団”の誤算

 キリンビールが来年1月、小規模な醸造所で造るクラフトビール(地ビール)事業に参入する。東京の渋谷区代官山と同社の横浜工場に醸造設備を新設、施設内の飲食店で『スプリングバレーブルワリー』のブランド名で販売するほか、インターネットでも販売する。
 その狙いについて記者会見した磯崎功典社長は「日本のビールは今までの在り方から変化を遂げ、新たなステージに突入する過渡期に立たされている。そこで独自のビール文化の創造に取り組む」と強調した。
 だが、市場関係者は「世間のビール離れを食い止める秘策のつもりでしょうが、売上高の目標は2020年で150〜200億円。社長自ら『5年で単年度黒字になれば成功』と公言しており、市場に与えるインパクトは限りなくゼロに近い。貴族趣味というか、いかにも“公家集団”と揶揄されてきたキリンらしい発想です」と斬って捨てる。

 背景にあるのは、かつて6割にも及ぶ圧倒的シェアを誇ったキリンの凋落だ。先ごろビール各社が発表した今年上半期(1〜6月)のビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)出荷量は消費増税前の買いだめ効果があったものの、全体で前年同期比1.2%減にとどまり、上半期としては現行の統計が始まった1992年以来のワースト記録だった。
 ところが、会社別のシェアでは明暗がくっきり分かれる。アサヒが前年比1ポイント増の38.1%、サントリーは0.4ポイント増の15.5%、サッポロも0.5ポイント増の12.4%と、厳しい環境の中にあって3社がシェアを伸ばしたのに対し、キリンだけは1.9ポイント減の33.1%と、過去最低にまで落ち込んだ。だからこそ前出の市場関係者は「アサヒの背中が遠のくばかりで、下手するとサントリーにも抜かれかねない。シェア奪回が最重要課題だというのに、いくらヨーロッパで人気が出てきたからといってクラフトビールにウツツを抜かしている場合か」と手厳しい。

 それにしても、なぜキリンは“独り負け”に陥ったのか−−。
 証券アナリストは「失速は何も今に始まったことではありません。ただ、今年に入って『一番搾り』の立て直しを最優先させたことで『ラガー』や発泡酒の『淡麗生』、さらには去年5月に発売して以来、短期間で人気を集めた『澄みきり』などのCMを大幅に減らした。これが売上減に直結したのは間違いない」と分析、こう付け加える。
 「実をいうと去年の販売実績でもキリンは独り負けの屈辱を味わった。そこで磯崎社長がこれを脱却するには『まず一番搾り』の大号令をかけ、これまでの多方面戦略から“一本足打法”に切り替えたのです。これが的中し、アサヒ追い上げに弾みがつけば磯崎社長の評価は急上昇したでしょうが、現実には裏目に出た。まして一番搾りはCMに大枚を投じたにもかかわらず、前年比で0.4ポイントも落ち込む始末。お陰で“迷走キリン”の象徴になったのだから皮肉なものです。もし下期もジリ貧から脱却できず落ち目のキリンをアピールすれば、社長の責任問題に発展します」

 道理で磯崎社長、クラフトビール事業への参入会見で「(一番搾りは)缶と瓶がプラスとなり、ブランド育成に手応えを感じている」と“先手”を打ち、返す刀で「これまでの行儀良さから脱し、戦う集団となるべく営業の意識改革を行い、課題に対してスピーディーに取り組んでいく」と力説したわけだ。
 これは遅ればせながらの“脱・公家商法”宣言だが、キリン・ウオッチャーは「いよいよ尻に火が付いてきた証拠」と苦笑する。
 「もっと早々と戦う集団ウンヌンを宣言し、実行に移していれば、世間に醜態をさらすことはなかったでしょう。しかし歴戦のツワモノ揃いで知られるアサヒやサントリーの営業部隊から見れば、エリートばかり集めたキリンの営業部隊は組みやすい相手。逆に返り討ちに遭っていたかも…。むしろ一本足打法に特化していたことが幸いし、傷口を最小限に抑えた可能性さえあるのです」

 一体、キリンは夏本番を迎え、どう巻き返すのか。「大手居酒屋チェーンの株を買い集め、腕力で自陣に引き込む奥の手がありますが、本来、営業に近道はない。地道な営業しかないでしょう」と前出・アナリストは指摘する。
 「営業部隊はもちろん、磯崎社長をはじめ、首脳陣がトップセールスでどれだけ汗をかくかで勝負が決まる。CM攻勢での挽回策も欠かせない。対象を一番搾りからどこまで拡大するかも、キリンの命運を左右するでしょう」

 果たして夏本番を経て下半期にどう挽回し、存在感を見せつけるか。記録的な猛暑の中、前途に不吉な赤信号がチラついたキリンの正念場が続く。

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