まず、団地に近い路上で急に携帯が圏外になった。(あれ、おかしいな…霊障かな)などとほくそ笑んでいる筆者は、バス通りの路上中央に立ち尽くしていたことにしばらく気づかなかったのである。あの時車が来ていたら…と思うとぞっとする。
また、団地を下ったところにある商店街の裏手で急に頭が痛くなり、目が霞んだ。頭痛は、翌日まで続いた。それについては、「かつてこの鶴川団地で不審死があった」「この商店街の眼の前にある横浜銀行の付近は、かつて首切り場だった」という噂があったが、実際にこの商店街の飲食店の店主が謎の死を遂げているという符合もあった。
「かつて首切り場」−この地の周辺は、怖い噂の宝庫である。サナトリウムへ抜ける道の白い幽霊、化石山といわれた一帯のボウガン魔の噂、化学兵器開発や人体実験の噂で有名な陸軍登戸研究所…すべて、ひとつのエリア内とも言えるだろう。
そしてそれら真偽不明な噂の中、まことしやかに喧伝される最大の噂がある。
それは、「この鶴川エリアは、立川や相模原などの軍事的に重要な地の中間にある場所だったので軍需産業の小さな工場がたくさんあり、秘密戦闘機のパーツなどをつくっていた。だからこの地の人々はいまも沈黙を続けている。その中で最大のタブーは、立川周辺に、特攻隊を無事生還させるためだけに囮で飛ぶ飛行経験もない20〜30人の未成年部隊があり、死ぬ前に親に会いたいと騒いだため少年たちを上官達がサーベルで処刑。その遺体がこの鶴川エリアに埋まっている」という切ない噂だ。
怖い噂であるのと同時に、放ってはおけない噂ではないだろうか。(了)