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経済偉人伝 早川徳次(シャープ創業者)(22)

 水天宮で知り合った、文房具を売る若い男とは各地の夜店でよく会った。彼は徳次の鉛筆を自分の商い用によく買ってくれ、最後には残りの鉛筆をまとめ買いしてくれた。
 こうして鉛筆が片付くと、今度は仕事の少ない夏の時期を利用して、灯籠(とうろう)をブリキで造ってみた。9センチ四方くらいの小型のもので、四面にガラスを嵌(は)め込んだ。近所の絵師に1枚3厘の割で美しい絵を描いてもらった。屋根のついた灯籠の中には、ごく小さなカンテラ(携帯用の灯油ランプ)の灯を入れる。なかなか体裁のよい出来上がりだ。
 この灯籠を2個のビール箱いっぱいに入れて深川八幡の縁日に出店した。ビール箱の1個は徳次の腰かけになり、1個は前に置く。これに2本の竹竿を左右に立てて、2段に針金を引き渡して灯籠をいくつも吊り下げた。

 数々の絵入り灯籠が徳次の夜店を飾った。1個12銭。針金に掛けるとすぐ売れた。毎晩15個、20個とほとんど全部の品が捌(さば)けた。
 灯の下は明るく、徳次は客のいない時は書物を読んだ。夜店に出る合間を縫って夜学にも通った。夜学では主に算盤(そろばん)と漢字を学んだが、職人には付き物の夜業もあり、なかなか通い続けることは困難だった。
 そこで、教科書代わりの“千字文”(千の異なった文字が使われている漢文。子供に漢字を教えるのに用いた)から毎日1字ずつ、漢字を覚えることにした。1日1字で1年365字、3年で1095字になるから、3年経てば千字文も暗記できるというのが徳次の考えだった。
 これは思ったようには進まなかったが、それでも夜店で客がいない時を見計らって暗記するなど苦心惨憺(くしんさんたん)した挙句、何とか実行した。
 この苦労の最中に、文字には関連性があるということに気が付く。1字の記憶はやがて類似の2字、3字とつながっていくのだった。

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