「香港市民は、中国人をあらゆる面において馬鹿にしています。例えば、歴史問題ですが、僕ら中国人は、日中戦争において、八路軍(共産党軍)がモグラみたいに日本の陣営まで穴を掘り進み、撃退した話とかを中学校の授業で習うんですよ。抗日映画なんかを見ていても、日本の戦闘機・零戦を鉄砲で撃ち落とすシーンなんかがよく出てくるから、それも本当にあったものだと勘違いしてしまう。あと、日本軍が中国から撤退したのは、アメリカの原爆の力ではなくて、毛沢東のお陰だと本気で信じている人も多い。そんなことを香港の人たちに話したら、馬鹿にされますよね。香港では2012年、中国の歴史教科書が導入されそうになったけど、香港市民が『子どもに嘘の教育を教えるのか』と猛反発しました。全然歴史観や考え方も違うんです」
今回の漫画では、こうした中国の洗脳教育とも言えるような歴史教育の実態や、国家がひた隠しにする天安門事件などの際どい問題が中国人ならではの視点から描かれている。
◇日本に来て知った中国の異常さ
孫氏は現在、中国と日本を行き来しつつ漫画を描いている。言論統制の敷かれている中国においては、いつ逮捕されてもおかしくはない危険な立場である。
「僕も捕まりたくはないので、身バレしないように、細心の注意を払っています。特に習近平政権になってから、規制は強まっているので怖いですね。香港の雨傘革命でも、微博(中国版ツイッター)で『支援する』と呟いただけで、拘束されている人たちもいるぐらいです」
なぜ危険を冒してこんな本を出版し続けるのか。
「もともと、僕はラブコメを描きたかったんです。でも中国のマンガ業界は、規制が厳しくて、パンチラも描いちゃダメだし、高校生以下の男女の恋愛ストーリーもダメ。描きたいことが描けないんです。そんなジレンマを抱えていたとき、日本旅行に行って中国との違いに驚きました。僕が普通だと思っていた中国の実情は、日本では普通じゃなかった。そこから、中国の現状に強い違和感を覚えるようになり、そんな思いを外に発信していきたいと考えるようになったんです」
香港のデモをはじめ、ウイグル問題や大気汚染など様々な問題を抱える中国。中国庶民の視点から中国事情を斬りまくる孫氏の存在は、今後、更に重要性を増しそうだ。
(文 杉沢樹)
■孫向文(そんこうぶん)。31歳。中華人民共和国浙江省杭州出身。『中国のヤバい正体』、『中国のもっとヤバい正体』(ともに大洋図書)が好評発売中。