『ライフ・アンド・デス』(藤田宜永/角川書店 1995円)
何と魅力的な登場人物たちであろうか。主人公は元弁護士。相棒になるのが元刑事で、ストーリーが進むにつれ、元殺し屋も彼らに関与してくる。この“元”という設定を徹底させたところが本作ならではのオリジナリティーだ。現役の弁護士や刑事ではなく、フリーの立場にいる彼らだからこそ、人間関係のしがらみや拘束から自由でいられる。好きなように行動できる。そんな彼らが物騒な犯罪の裏側に肉迫していく。自由人たちが暴れまくるアクション・ハードボイルド、それが本作だ。
主人公・藤立卓郎は過去に暴力団の重要人物・竹松卯吉に攻撃を仕掛け、殺人未遂の罪で服役していた経験を持つ。出所後は表立っての仕事に復帰できなかったが、恩師といえるベテラン弁護士の事務所を手伝うことで生計を立てられた。唐突に竹松から連絡が来た。配下の暴力団組員が射殺された。その犯人と思われる元殺し屋を捜し出してほしい、という依頼をしてきた。藤立のかつての殺人未遂は勘違いによる怒りが発端であった。誤って攻撃を仕掛けた竹松に詫びたい気持ちがあり、その依頼を承諾するが…。
人捜しに邁進する藤立と敵対するのは“元”ではなく現役の殺し屋。人を簡単に殺せるが、動物はこよなく愛する歪んだ男である。元弁護士、元刑事と狂った殺し屋との間で交わされる戦いは極めて自由で、はじけている。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『漫画・居酒屋のつまみを劇的に旨くする技術』(筆吉純一郎・伏木亨/メディアファクトリー・777円)
刺し盛り、焼鳥、漬物といった“定番おつまみ”の美味しさをグっと上げるテクニックを、15のストーリーで紹介する画期的グルメ漫画。栄養化学の知見満載の物語が、あなたの食欲と好奇心を刺激する!
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
今回はいつもと趣向を変え、雑誌から派生した話題の書籍を取り上げてみよう。『女体の森』(1260円/扶桑社)は、『週刊SPA!』に連載されているみうらじゅん&リリー・フランキー監修による『グラビアン魂』の対談記事をまとめたもの。男たちが抱くグラビアアイドルへの妄想を、人気者2人が縦横無尽に語り尽くしている。
登場するアイドルは、300人以上。小林恵美、長崎莉奈、熊田曜子らおなじみのグラドルをテーマに、「すごい遠い女をどこまで近づけるかが男の妄想のカギ」「体と顔が合っている“巨乳顔”の美女とは?」など、オヤジたちが酔って盛り上がる居酒屋トークにも似た放言・珍言を展開。
ところが、これが「うんうん、そうだよなぁ」と納得できる含蓄に満ちていて、まことに爽快なのである。女に関するエロトークに延べ7年半を費やしたというこの対談…男というのはしょーもなく、しかし愛らしい。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意